人間が前傾すると、腰部に大きな負担がかかるということはよく知られています。しかし、その負担を例えば筋力や脊柱にかかる力、圧力として直接測ることはできません。足や手にかかる力あるいは、各関節の屈曲角度を測り腰部負担を推測する以外の方法はないのです。前傾姿勢で腰部にかかる力を目でわかるような模型(モデル)を製作したことがあります。そのとき、NHKの「ためしてがってん」の腰痛特集にそのモデルを出演させる予定で、学生君たちと徹夜で製作したことがありました。それは人形の胴体部を前傾させると腰に大きな力がかかるということを目に見えるようにしたものです。しかし、出来上がった作品の映像を全国放送するには、少しばかり問題があるということでそのモデルの出演は没になりました。このとき、NHKのディレクターが、1週間も徹夜で頑張った学生さんたちに申し訳ないと当時流行っていたウォークマン(NHKの文字が印刷されていた)をお詫びの品としてプレゼントしてくれたことがありました。学生たちは、大喜びした懐かしい思い出が目に浮かびます。
退職して6年が経ちましたが、看護大学、看護専門学校で人間工学を教えています。当然、腰部負担軽減の話が出てきます。この話しには看護学生が苦手とする力学や数学が関係してきます。テコの原理や力のモーメントの話しをしないと腰部負担軽減が理解できません。そこで、前述の腰部モデルを思い出し、この5月の連休に東急ハンズに出向き、前傾したときの姿勢を模擬し、そのときの腰には大きな力が作用していることが体験できるモデルを作りました。それが写真の腰部モデルです。これは脚部と胴体部を想定し、2枚の木板を蝶番で結合した簡単なものです。蝶番の回転中心位置に木製の円盤を取り付け、この円盤に沿って筋肉を模擬したステンレスワイヤを這わせ、胴体部板の中間にそのワイヤ先端を固定しました。手でステンレスワイヤに力を加えると胴体部板が持ち上がります。このワイヤを学生に持ってもらい、力を入れたり緩めたりしてもらいます。こうすることによって、胴体部は下がったり上がったりします。このときの力を感覚的に覚えてもらいます。胴体部板の先端に患者に見立てた重りを載せワイヤに力を入れてもらいます。このときのワイヤの力は相当に重くなります。こうして、前傾した胴体部を持ち上げるためには大きな力(筋力)が働いているということを手にかかる力の大小でこのモデルによって理解してもらえます。
大きい円盤は回転中心の半径が大きくなると、胴体部の重量が同じであるなら小さな力(筋力)で持ち上げられることを理解するために取り付けた円盤です。【2011.5.13】
写真1:胴体を下げた状態の腰部モデル 写真2:お辞儀して90°胴体を前傾させた状態 写真3:上方から見た腰部モデル 写真4:教室で腰部モデルを操作する学生
2011.5.31 記
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