注射針を人の肌に刺す実験は不可能である。そこで、スポンジ(目下、人肌に近い材料を物色中)を2軸力変換器の上部にセットしそのスポンジに針を刺すことにした。その時の水平方向と垂直方向の力が測れることを期待し、前回紹介した2軸力変換器を試作した。 今回は、針をスポンジに刺し、そのときの微弱な2方向の力を同時に電子的に測れたので、紹介する。測る原理は、電子体重計と同じである。異なるのは、測る値がkgf(キログラム)のオーダーではなく、g(グラム)オーダーの小さな力である点である。 写真1は、ひずみ測定器、パソコンに試作2軸力変換器を接続した測定システムを示す。写真のように2軸力変換器上部にセットしたスポンジを注射針で刺すと、その時の水平・垂直力がひずみ測定器で同時に計測されるので、その記録や記憶はノートパソコンでできる。 写真2は乱雑なOラボでの注射針穿刺の実験風景を示す。2軸力変換器はノートパソコンの陰になって見にくいが、注射器を傾斜させるガイドとしての木箱とその左手のテレビ画面上に写しだされたデータが見える。ここで、実験に使用したテレビの有効利用について述べる。普通、研究室で実験をする場合、実験者は実験がうまく行われているかどうかのデータはパソコン画面で一生懸命に見ている。パソコン画面は小さいので、その様子は共同実験者には見えない。ところが、写真2のようにテレビのRGB端子を使うと、実験中のデータはテレビで拡大してみえるので、実験中のデータは共有できる。このようなことは、大型テレビがない実験室ではできない。自宅だから可能である。 写真3は、23Gの注射針(数字が大きくなると細くなる)を30°の方向からスポンジを刺した場合の水平力、垂直力データである。垂直力を水平力で割って、そのアークタンジェントをとった穿刺角度も示してある。写真3に示すように得られた穿刺角度の結果は19°と予想角度より小さい。何回実験を繰り返しても小さいので、変形しないキリを使い同様の実験を行った。その結果を写真4に示す。この写真に見るように、30°方向からスポンジに穿刺するとほぼ30°という好ましい結果を得た。 以上の予備実験の結果、細い注射針は普通に穿刺すると曲がり(反り)、看護師が真っ直ぐ刺入させているにも関わらず、針は曲がって進むことが分かった。注射針の力は、水平方向では約100gf、垂直方向では約20gfと小さい力である。80円で送れる郵便物の封書の重さは25gf以下である。このことを考えると、注射針の穿刺時の垂直力は封書郵便物程度の力であることが分かった。 今後は、針が曲がる(反る)原因を追究すると同時に系統的に種類の異なる針の曲がり具合を計測する予定である。と同時に共同研究者と注射針の挙動(穿刺角度、穿刺速度など)と痛みの関係について追求する。
写真1: 前後・上下(水平・垂直)2軸力変換器と注射針2軸力測定システム
写真2: Oラボの注射針穿刺実験風景
写真3: 30°傾斜させた注射針でスポンジを刺した場合の力データ
写真4: 30°傾斜させたキリでスポンジを刺した場合の力データ
2011.12.18 記