看護大学の先生方と共同で看護基礎分野の研究を行って以来久しい。看護学の先生方から看護に必要な問題を提起していただき、私はその問題に必要な計測技術を提供し、実験的研究を2000年以来行い12年が経過した。このくらいの年月を研究に没頭する機会があるとある程度のことは解決できるし、成果も挙がる。
ベッド周り研究会発足は、理系の大学に勤めていたある日、研究室に配属された一人の男子学生の姉が看護師であるといい、その姉から聞いた話だが看護師は腰痛持ちが多いということを教えてくれたことに端を発する。早速、その姉が卒業したという自治医科大学へ出向き、ある教授に会った。同時にその場にいて当時助手であったO先生とも話し合った。説明を聞き、腰痛を発症する理由が分かった。それを予防するために基礎看護では人の動作と力学に関係するボディメカニクスを教授しているという。しかし、看護学生の多くは物理・数学にほとんどの人が無縁のようで、それらの科目は履修していないという。物のデザイン、人の安全、作業効率・能率、身体負担などを考究する人間工学という分野で仕事をしていた関係で、腰痛予防やその軽減法に興味をもった。
こうして看護分野と工学分野の研究が繋がり、看護の臨床現場で物理現象が測れたらよいという研究テーマが沢山あるというので、その計測に取りかかることにした。理系の研究室では、ベッド上の重い患者を持ち上げるときの力を測るとか、杖を突いたときの杖先の力を測るとか、ベッド上で寝ている患者の背中の力(垂直・水平力)を測るというような実験的研究を行った。その成果を学会で発表すると聴講した看護大学の先生方から相談を受け、それが共同研究に発展した。研究内容を議論するには、集まる必要があるので、一度集まろうということで自治医科大学へ出向いた。そこでは、研究について話し合ったことはもちろんだが、定期的に集まるためには会の名前をつけたることになった。しかし、その場で良い名称が思いつかないまま「ベッド周り研究会」と仮称し、月に一度このベッド周り研究会を開くことにした。第1回の研究会は、今から12年前の2000年7月29日(土)の午前11時から自治医科大学で行った。その後、場所を埼玉県越谷市にある埼玉県立大学、東京女子医科大学、あるいは喫茶店などと会場を変え、今日にいたった。当時私は埼玉県鳩山市にある東京電機大学理工学部に勤務していたので、ここを会場にするのが適当かと思った。しかし、遠路で不便であったため、東京電機大学鳩山キャンパスで研究会を開くことは一度もなかった。
研究会では、看護師や患者のベッド周りの動作、あるいは起き上がり支援するモンキーポールという補助具の性能や設置位置の検討、ギャッチベッド・ストレッチャーの移動操作性、手すりの設置位置・高さ、摩擦利用のイージースライド、患者持ち上げようのハンドリングスリングの使用効果、注射シミュレータ開発のための注射器薬液の圧力測定など動作や用具の使用性などに関わる実験的研究を行ってきた。こうした研究の成果をまとめて、写真2〜3に示す「看護動のエビデンス」、「看護・介護のための人間工学入門」、「看護に生かすベッド周りの人間工学」の3冊を連名で世に送り出すことができた。
今、思うと人間工学が主たる研究分野であった以前は、ロボットの研究を行っていた。ロボットに人間動作の真似をさせたい。その基礎として、人間の動作に興味を持ち、動作研究を長い間行っていたことがあって、看護の動作研究に入ることができた。これも “看護師は腰痛を起しやすい”という教え子の一言で、この分野の研究に入り、3冊の本まで出版できた。
「ベッド周り研究会」は第三の場であると思っている。研究会といえば立派だが、研究以外の話し合いも結構盛に行い、旅行のこと、家庭のこと、子供のこと、友人のことなど研究会での話題はなんでもありであった。会は午前11時から始まって、午後3時ごろに終わろうと最初に話し合いがついている。昼食は近所のコンビニお弁当のこともあれば、わざわざ鰻屋さんへ行き、大学に戻ったらもう3時だったということもあった。
以上述べたように研究の話題を議論する場であったはずの「ベッド周り研究会」だが、ストレス解消の場でもあったようだ。こうして、職場と家庭を往復するだけでなく、第三の場を設けて研究会・勉強会をするという大義名分をつけ皆が集まり、ストレス解消の場にするというアイディアは大変望ましい。この第三の場という話を評論家の秋山千恵子さんがその昔ラジオで放送していたのを耳にし、この第三の場をいつまでも持ち続け今日に至っている。その「第三の場」である「ベッド周り研究会」を2月11日(土)に閉会した。その時、集まったメンバーが写真4である。閉店の理由は、@皆さんお偉くなり非常に忙しくなったので集まる日程調整できないこと、A私自身も年輪を重ね動きが鈍くなったこと、による。【2002.2.11】
Ko、Su、O、Ku、Ka、Saの各先生、あっという間に12年が過ぎましたね。第1回は上述したように2000年7月で自治医科大学(手帳に書いてありました)でした。それ以来、12年間という長い間大変お世話になりました。一度、ここで幕を下ろしますがまだ元気ですので、なにかの折に測定技術が必要になりましたら、遠慮なく声をかけてください。また、お役に立つことがあるかもしれませんので。
写真1:「看護動作のエビデンス」 写真2:「看護・介護のための人間工学入門」 写真3:「看護に生かすベッド周りの人間工学」 写真4:パリの朝市でのベッド周り研究会の閉店会
2012.2.23
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