講義の旅に出ている間に、眞喜子が腰痛になった。金曜日(6月1日)は成田市に来ていたが、携帯電話で立てなくなったという報告を受けた。まさかそれほどのことはないと思い自宅に戻ったところ、口はよく動くが体が動かない。座った状態から立つことが非常につらそうだ。いったん立ち上がると何とか歩けるが、座ると立てない。
腰痛を発症する前は、片腕が持ち上がらなくなっていた。この症状は、パッチワークをやり過ぎだということがわかっている。整体院にでかけ、ケアしてもらい少しずつ腕のほうは回復に向かっていたところ、今度は腰痛が突然襲った。こちらは彼女の話によると、毎月回収にくる古新聞の束を持ち上げた時にやられたということだ。
自宅に戻り、彼女の顔色をうかがったところ、顔つきは元気。しかし、腰が痛いようで座ったらなかなか立てない。痛みが取れるという絆創膏が山手線の広告のように腰周辺にべたべたと貼りつけみっともない状況。立ち上がり時に支援をするが、背中に手を回せば“いた〜、いた〜”、腕のわきに手を当て持ち上げると、今度はパッチワークで患った肩・腕が“痛い〜”という。このようなわけで、手の出しようがない。眞喜子を持ち上げるということは結婚以来まずない。今回、座位から立位途中までであるが、持ち上げを実行して、非常に重いということが分かった。2人きりの生活で、持ち上げ支援でこちらも腰痛を起こすと2次災害になり、食料品も買いに行けなくなり困り果てることになる。脱力状態の人間は思いのほか重い。介護者は腰痛を犯す可能性が高いというが、その理由がよくわかる。
20年ほど前、看護師の腰痛問題に取り組み腰痛の現状を調べたり文献調査したりしたことがある。その結果、業務で腰痛を起こした人は70%〜80%いるということが分かった。ところが、17年ほど前になるがイギリス・スコットランドへ渡り、イギリスの看護師さんにアンケート調査をしたところスコットランドでは40〜50%の人が業務で腰痛を発症したという低い発症率であった。これには、理由があって一人で患者を持ち上げてはいけない、必ず複数人で持ち上げるとか、周囲に同僚(支援者)がいない場合は機械(リフター)を使いなさいという規制があることが分かった。さらには、病棟にはキーリフターという看護師がいて、そのキーリフターが患者持ち上げ時に相談に乗ってくれるとのこと。また、患者ハンドリング・スリングといって患者移動や立ち上げ支援に使う、長さ50センチ、幅20センチほどのゴム板状材料で作られた用具が病室の壁に掛けられてあった。この用具両端近くには穴があけられ、その穴に両手を入れ、それを座位にある患者臀部に当てがう。ハンドリング・スリングを使うと、患者を座位から立位へ支援する場合の看護師前傾角度は減少する。前傾角度が減るということは、腰部負担が減るということになる。
眞喜子を持ち上げる際、昔研究していたこのようなことが役立つかなあと思いながら持ち上げた。しかし、普段使わない技であるから、思うようにその成果を現わすことはできない。ここ数日、身体が動かないくせに口がよく動く眞喜子を相手に、悪戦苦闘している。食料の買い出しや、台所にあまり立つことがないので、何を買い求めたらいいのか、食器類がどこにあるのか不明で戸惑っている。眞喜子には早く回復してもらいたいと願っている毎日である。治ったら温泉へつれていくと約束し、また、今日も講義の旅に出てきたところである。
2012.6.5 コンフォートホテル成田にて記す
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