看護初学者が一番苦手とするのは注射手技と聞く。その練習用にと注射器シミュレータの開発をはじめ10年ほどが経つ。開発を開始したころは、注射器内の薬液の圧力をどのようにして測るかが課題となった。注射器内に小型圧力センサーを封入したいところだが、注射器の内筒(ピストン)部分が動くことと、仮に封入できたとしても圧力計から出ている細い電線の引き出しはできない。そこで、注射器先端付近に小さな筒を取り付け、写真1のようにチューブを繋げるように改造し、それを実験用注射器とした。この小さな筒は、別のプラスチック注射器の先端部分を切り取ったものである。昔のガラス製注射器であったらこのような改造はできないが、今の注射器はプラスチックであるから、先端部分を切り取ることは容易に出来る。写真1の実験用注射器に示すように、切り取った部分(小さな筒)は、実験用注射器先端部分に穴を開け、そこに接着剤で固定した。取り付けた小さな筒は注射器の一部であるから、そこにはチューブを容易にはめ込むことが出来る。こうして、注射器内の薬液はチューブを介して外へ導けるようにした。 次は薬液圧力の測定である。写真1の新型圧力変換器(注射器を応用)に示すように、ひずみゲージ式超小型圧力センサー(直径5mm、厚さ0.5mm)をプラスチック注射器内に封入する。これを新型圧力変換器と名付けるが、その先端にはチューブを繋ぐ。反対側の端は、注射器内筒エンド部分を切り取ったプラスチックを蓋として応用し、その蓋を接着材で固定した。実験用注射器と新型圧力変換器はチューブで結ぶ。看護初学者が実験用注射器を操作すると圧力が変動するので、その圧力を新型圧力変換器がキャッチする。こうして注射手技の圧力変動は測定可能となった。 写真1に示すように実験用注射器と新型圧力変換器をチューブで結ぶ。超小型圧力センサーからのリード線をひずみ測定器に接続し、ひずみ測定器からの“出力”はノートパソコンに接続する。圧力変動はノートパソコンの表示画面に描かれる。以上が実験システムの構成である。 看護初学者、ベテラン看護師を被験者にお願いし、上述の実験システムと腕モデルを使い注射(インジェクション)と採血(サクション)の実験を重ねてきた。このシステムを使うと、注射手技の上達具合、初学者、経験者の注射手技の現状が視覚的にわかる。注射手技の練習効果が視覚的にグラフ変動(圧力変動)で分かるので、内筒の押し方が速いか遅いか、滑らかかに押しているかどうか、注射時間は何秒かかるかなどがわかる。 以上の研究は、埼玉県立大学のK先生、S先生らと共同研究で約10年行ってきた。最近、この研究成果を製品化したいと企業(ICST)から申し出があり、「インジェクション・トレーナー」として写真2に示すような商品がデビューすることとなった。その商品が世に出る前に問題がないかということを調べるために臨床現場で働いているベテラン看護師による使用性の実験を行った。使い勝手やベテラン看護師の技(データ)を調査する実験は、埼玉県越谷市病院のベテラン看護師17名に行ってもらった。写真3はそのときの様子を示す。得られた圧力変動データは写真4に示すような形で表されるので視覚的に被験者自身の技が直ちに分かる。このデータのように平坦であれば、一定に内筒を押したことが分かる。また、最初の圧力急上昇時点から注射終了時の圧力急下降時点までに要する時間は直ぐ読み取れるので、手技に要した所要時間もわかる。【2013.3.18】 写真1:研究段階の「注射手技シミュレータ」実験システムの構成 写真2:商品化された「インジェクション・トレーナー」 写真3:ベテラン看護師の使用性評価実験 写真4:測定された圧力データの一例 2013.4.5 自宅にて記す
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