月曜日から金曜日まで戸田市、川口市、成田市、旭市、姫路市にある看護専門学校で看護のための人間工学の講義を行うため移動している。人間工学という分野の研究や講義は面白いし、実際に研究し講義を行っていて楽しい。以前、在籍していた大学で人間工学の研究を行っていたが人間工学という講義科目は設けていない。人間工学研究室というのもなかった。「人間工学研究室」という看板を掲げ看護技術と関係ある人間工学の研究を行ってきた。こうしたこともあって、定年退職後も看護専門学校より人間工学の講義依頼を受け、11年目に入る。その講義を行うために、各地を飛び回っている。その講義の5分の4を終えたところである。
看護師は腰痛を発症することが多いと聞き、その原因を調べることから研究を始めた。人間の腰から上の上体(胴体、頭、両手)の重さは、体重の66%の重さがある。体重50kgfの人なら、腰から上の重さは33kgfと非常に重い。お辞儀をするとその重さ33kgfが腰から前に移動するので、その重さを支えるために脊柱起立筋が大きな力を発揮する。その力は体重の3倍とも4倍ともいわれるほど大きい。お辞儀をし、上体を前傾するだけでこのような大きな力を発揮するので、前傾姿勢で重い患者を支えたり持ち上げたりすれば、その患者体重の影響が加わるため、さらに大きな力を脊柱起立筋は発揮しなくてはならない。また、ベッドまわりで患者を支えたり、移動あるいは移乗させたりするときには重心が変動し、倒れる可能性もでてくる。このように倒れるとか転倒するとかいうことを力学的に解説し、転倒の理論を理解してもらい看護姿勢に気をつけるよう促す講義を行っている。このような力学原理に基づいた看護や介護の姿勢のありかたを考究する分野はボディメカニクスという。このボディメカニクスは、看護師や介護士の負担を軽減し、腰痛予防につながる話しであるので、講義する人間工学の中でも力を入れて話しを行っている。全般的な人間工学の講義としては、「人間機能に合わせた安全で使いやすいデザイン」、「働きやすい職場環境」、「生活しやすい環境の実現」、「安全で使いやすい道具や機械のデザインと製造」というような「人に役立つ実践的な科学技術」、「安全で働きやすい職場環境の実現」の話しも講義のなかに含まれている。
今年から講義方法を変えたところが2点ある。その1つ目は15章からなる新しい教科書を創り使用したこと。2つ目は講義中の話しを良く聴きKJ法ラベルに書き、それを白紙のA4用紙に貼り付け、島作りし、タイトルを付けて毎回提出することとした。最初はKJ法とは何か、どのようにラベルに書くのか、島作りはどうするのか、得られた島にタイトルをどのようにつけるのかといろいろな悩みが学生達にあった。こうしたやり方は教科書の2章に書いてあるので、講義2回目にその内容を解説する。この時点から講義内容を聴いて印象に残ることをラベルに書き取らせた。ラベルの数は20枚程度とすると、A4用紙に貼付してバランスがとれるノートが作れることがわかった。
看護師は看護現場で患者の要求や看護に必要な工夫やアイデアが要求されることが多い。そうした要求に応えるため、創意工夫やアイデア創出が望まれる。このような場面で役立つ方法のひとつにKJ法がある。このKJ法を講義ノートのつもりで授業記録に応用する試みを今年度から行った。その授業は先週8割がた終えた。授業最後のKJ法に関する授業評価で、以下のようなコメントを受けた。
「グループワークなどで皆と話し合う時にKJ法は役立った」「KJ法は大事な言葉、要点をまとめることができ、とてもよい」「KJ法を活用することで情報共有をしやすくなったので、これからも活用したい」「KJ法で講義ノートを作成するのが楽しい」「KJ法で講義内容をまとめると後で見直す時によく思い出せる」「KJ法でのノート作りは楽しかったしまとめやすかった」
講義は物理・力学を高校で取っていない学生がほとんどである。腰痛を起こす可能性のあるところの物理・力学をパワーポイント、支持基底面、テコ、力のモーメント、摩擦、慣性などが理解できる力学実験の手製モデル作成し、看護動作と結びつけて講義をすすめた。その甲斐あって、最終講義では人間工学は面白い、KJ法は楽しく役立ちそうだとの回答している学生がほとんどであった。【2016年6月14日】
平成28年6月15日(木) 旭中央病院にて記す