もう20年以上前,ホンダ朝霞研究所の有志によって立ち上げられたDream Ridersというサイトがあった。そこでの話題は勿論単車で,オンでもオフでも仲間が増えていった。
単車のナンバーワンメーカーだけあり,また鈴鹿や茂木のサーキットを造ってしまうだけあって,そのようなサイトが立ち上げられる素地があったのだろう。それだけに流石いろいろな企画がなされていたのだが,ある時 『夢バイクコンペ』 というイベントが行われた。要は各自,自分が欲しいバイクについて主張するもので,デザイン部門だったり,論文部門だったりと,いくつかのジャンルがあったと記憶している。
私はその中の論文部門に応募した。その記事がPCの隅に残されていて,最近懐かしく読み返したので,それを掲載することとした。
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バイク組み立てキット 1 単車の楽しみ方 私は,移動手段や遊びの道具として,ほぼ毎日単車を使う。実用半分,趣味半分だ。使うだけではない。素人レベルではあるが,整備,修理,改造,記録,ライテク磨きと多様に係わっていて,各々の行為が楽しい。これらに関連する人との付き合いもあるから,楽しみはいくらでも増幅する。
バイク便や郵便配達のように,特性を活かして仕事に使うならともかく,夏暑く,冬寒く,路面が凍結したら到底無傷では走れない単車に,何故乗るのか? それは,ある種の快感を求めてのことだ。若い頃,単車という未知の乗り物に乗って新鮮な体験をする。やがて,故障や悪天候といった苦難も経験するのが普通だ。その結果多くの人は,いつの間にか単車を降りている。快感も,何十年も続くとは限らない。快感が薄められ,乗り続ける理由がなくなって降りる人もいる。継続的かつ日常的に単車を楽しめるということは,乗ること以外の何かをも楽しめるということなのだ。 2 市販車の現状 今や日本製の単車は,速くて高品質との折り紙付きだ。しかし他の工業製品同様,量産品であることにかわりはないから,信頼性や整備性といった本来的な理由ではなく,生産性の面から決定された仕様となっている部分も多い。生産性すなわち組み立てコストを追求すると,分解結合し易さすなわち整備性が悪くなるのが一般的だ。もともと自分が造ったものではないから,たとえマニュアルを見ながら整備するにしても,分解結合のコツを掴むには経験が必要だ。以前と比較すれば,所望の部位にアクセスする前に,他の部品を外さなくてはならないことが多い。
メーカーにおいては,設計,試作,試験等の後に,外装部品を追加したり表面を美しく処理したりといった,商品価値を高めるための作業があるのだろうと想像する。勿論市場の要求に応えてのことだが,不要と思うものも多い。構成部品には,高い品質や精度を要するものと,付いてさえいれば良いもの或いは付いていなくてもよいものがある。市販車は,そのあたりのバランスがうまくとれている。そのバランス点はしかし,私の好みからすれば,単車の本質から離れすぎていて不満だ。とはいえ,少数意見を製品に反映することは困難だろう。 3 提案 そこで,何車種かの組み立てキットが販売されたらと思う。
基本キットは,フレーム,エンジン,足回りなど。付加キットは,電装,駆動系,タンク,シートなどが数種類ずつ。さらに各種オプション部品という3構成だ。
注文すれば,箱に入って送られてくる。模型飛行機の大がかりなやつと思えば良い。これで『組み立て』という,新たな楽しみが加わる。より高度な知識や技術が必要となるし,場所も工具も測定器具も必要だ。一人では手に負えなくて,仲間に手伝ってもらうことになるかもしれない。
ユーザーにとって,単車との付き合いは消費の構造だが,組み立てることによって創造に参加した気分にもなる。いずれにしても次第に形になっていくのは,ワクワクして楽しいことだ。
誰でも,自分のオリジナルが欲しいに違いない。その証拠に,エンジンやトランスミッションを載せ替えるような本格的な改造からステッカーチューンまで,レベルは異なるものの,世界に一台しかない単車は数知れず存在する。各種部品を選択し,組み立てて完成した単車は,相当なレベルで世界唯一だ。しかもホンダ製なのだから,怪しげな改造パーツを組み込むのとは違って,性能や耐久性も期待できる。 キットを組み立てることは,ややもすれば白い目で見られがちな単車の世界に,家族や友人を参加させる絶好の機会となる。ナットを仮締めするだけでも,タイヤを支えているだけでも,あるいは作業中にコーヒーを入れるだけでも,皆で協力して造り上げたことになるのだ。このような係わりは,単車の正当な市民権獲得にも貢献するだろう。
完成したら登録し,参加者全員で乾杯だ。正規の部品で組み立てられていることを証明するために,主要部品に添付されているタグを陸運事務所に持って行くことになる。レース場で使うなら勿論登録不要だ。
自分で組み立てた単車をツーリングやレースに使う。そして,少しずつ改良していく。今までよりもずっとディープに楽しめること請け合いだ。
4 何故キットなのか 第2項で述べたとおり,市販車には本質的ではない造りの部分がある。高品質であるべき部分がある種の見切り感をもって造られていたり,付加的部分が無意味に複雑すぎたりする。マシンはもっと質実剛健であるべきだ。また,肝心な部分だけは『誰にも後ろ指を指されない造りにするのだ』との意気込みが欲しい。しかし現状では,シンプルすぎる単車は売れないようだし,好みは人によって様々だから,それをとやかく言うつもりはない。
そんな世間の常識と自分の嗜好のギャップを埋めるために,造り込みの良いパーツを選択できる組み立てキットが欲しい。
私が今までに所有したのは,ほとんどオフ車だ。今後もそうだろう。誤解を恐れずに言えば,期待するキット(その1)のイメージは,保安部品付きモトクロッサーだ。排気音が押さえられていたり,タイヤがロード用であることは当然だが,スポーツの道具であるモトクロッサーのような,『シンプルかつ潔い車体』にナンバーを付けて走りたいと思う。また,そのような車体は,キットにし易いだろう。
それを自分の手で組み立てられるとしたら,それが私にとっての夢のバイクだ。
2026.1.5(月)
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