今年も学校の新学期が始まり、4月8日木曜日姫路に向かった。この日から今年の「講義の旅」が始まる。まず、9日、10日の2日間、姫路医療センター附属看護学校で集中講義。姫路から帰って土日を自宅で過ごす。次は月曜日、日帰りで埼玉県戸田市の蕨・戸田医師会看護専門学校で講義。その翌日の火曜日から埼玉県川越市の済生会川口看護専門学校、水曜日に千葉県成田市の二葉看護学院、木曜日に千葉県旭市の旭中央病院付属看護専門学校と講義は続く。姫路医療センター附属看護学校へは4月に2日間、5月に1日出かけるが、その他の学校へは月曜日から木曜日まで上述した日程で毎週講義を行う。
「講義の旅」とは、月曜日から木曜日まで自宅にもどらずに上記した5校の看護学校で連日講義を行うのでそのように名付けた。これまで何回となく医師や看護師に大変お世話になり、この年まで生き延びてこられた。その恩返しのつもりで、健康で元気でいる限り、依頼があればどこへでも看護に関わる人間工学の講義に出かけ、お役にたつよう努力している。 毎年のことだが、姫路医療センター附属看護学校へは他の学校が始まる数日前に出かけている。この学校は姫路城の真ん前にある姫路医療センターという国立病院の中にある。教室からは見えないが、屋上に上ると姫路城が見えるという大変立地のよい学校である。桜が咲くシーズンが過ぎる4月上旬に毎年訪れるのだが、今年は少し満開の時期を過ぎたころに出かけた。まだ、花が綺麗に咲いている講義前日の8日に姫路城公園を訪れた。この日は晴天に恵まれたお蔭で、5年ぶりに姿を現した美しい世界遺産の姫路城を外部から見学できた。午後遅くに姫路に着いたので、お城の内部に入る時間はないが立派に改修された姫路城を間近に見て写真も撮影でき感動。その翌日から雨が降り出し、よい日に姫路城の見学ができた。 2日間の集中講義を無事終え帰宅した後、土日を自宅で過ごし、月曜日は埼玉県戸田市にある蕨戸田医師会看護専門学校へ出向く。こちらの学校は制度を新しくし、3年課程4年修業となって新たに発足した学校である。したがって、今年は1年生だけが在籍しているので、少々寂しい感がする。火曜日は埼玉県川口駅からバスで10分ほどの済生会川口看護専門学校、次は成田市へ移動し、翌水曜日は成田駅からタクシーで10分ほどの成田病院附属の二葉看護学院、そして週の最終講義は千葉県旭市へ移動し、旭駅からタクシーで5分ほどの旭中央病院付属看護専門学校で講義する。旭中央病院は1,000床に近いベッド数を有する大きな病院である。そのためホテルなみのゲストルームがあるのでそこに泊めて頂く。職員が帰ったあとの病院はとても静かだ。最初のころは静かすぎて、気味が悪かったがいまではそれにも慣れ、部屋で学生が提出したレポートの採点を行っている。 以上のような生活が7月まで続く。講義は「人間工学」、基礎分野の科学的思考の基盤の一分野である。この人間工学は、最近、電車のつり革の配置・向き、トンネル内の照明、トイレの洗浄機などに応用されている様子がテレビで紹介され、少しずつ認知度が高まったように思われる。しかし、「人間工学」という言葉を聞いたことがあるかという質問に対し、講義を聴く学生はほとんどが初めてであるという。「人間工学」には工学という2文字が含まれているため、内容については全く想像ができないようだ。しかし、学生の大部分は高校時代に生物を履修し、物理は習っていないという。物理的な話しがでてきて、しかも数式も使う可能性があるので、人間工学は難しそうだと恐れをなしている科目のようだ。そして、この人間工学がどのようにして看護と結びつくのかという疑問を多くの学生はいだいている。 ところが、椅子の座り心地・高さ、机の高さ、ナイフ・ハサミ・消しゴム・ボールペンなどの文房具、冷蔵庫・鍋・炊飯器・電子レンジ・などの台所用品、上述した電車のつり革、トンネル内照明、自動改札機、券売機、ジュースなど自動販売機・・・・・・・・・・・・などの例を挙げれば切りがないほど製品が人間工学的に開発されたものばかりであることを説明する。さらには、看護や介護では患者・利用者を介助するので、その支援・介助のための技術にも人間工学的な課題があり、その一端にボディメカニクスがあることを解説する。このボディメカニクスには、力学原理の説明が含まれるので、ちょっとだけ数式が出てくる。このボディメカニクスを学習すると、患者を介助するときの無理な身体動作の理屈がわかる。そのため、腰痛をはじめとする脊柱障害から身を守ることができると説明する。看護師の70〜80%は業務で腰痛をおかしているという報告があるくらいに、看護師の腰痛発症率は高い。その主な要因は、ベッド回りで作業するため前傾姿勢をとり、その姿勢で患者の体位変換を行うことが多いためである。 以上のような内容の講義を終えると、看護初学者は全員が看護に「人間工学」は絶対必要だという。それなのに人間工学はなぜ広まらないのかといつも疑問に思っている。それは、物理や数学が不得意な女性が多い看護や介護分野では、「工学」という2文字が入った「人間工学」が受け入れ難いからのようである。内容がわかれば、その必要性を理解してもらえることは、これまで講義を行ってきた看護大学や看護専門学校で明らかになっている。【2015.4.23】 平成27年4月24日(金) 自宅にて記す |