岩波ホールで観る。キルギスという、あまり知られていない国の映画です。
この映画の重要な登場人物(?)の一つが馬なんだけども、日馬連もJRAも後援等に立っておりません。そりゃそうだ、日馬連ともJRAとも袂を分かつような内容ですからねえ。
お話は、題名の通り。村があって、どうやら幹線道路沿いらしいんだけど停まってく車は少ない、という田舎。そこで競走馬を飼ってて一山当てようという、金持ちのおじさんが購入した、飛びっきりの馬が盗まれて行方不明、になるとこから話が始まる。盗んだ奴が誰か、が実は最初から明らかになっているのだけど、話はそこでとどまらない。どんどん広がっていく。上映時間は1時間半程度だし、話のテンポもゆっくりなんだけど、考えさせられることが多くて、頭は大変でした。
非常にびっくりしたのが、イスラム教をかなり手厳しく批判しているところ。イスラム教は、あまり批判を受け入れない(まあどの宗教も同じですがね)ように思うので、監督さんの身の安全について、一瞬不安になってしまったくらい。
例えば、おばさんがあれこれ意見を述べると、イスラム教の偉いさんが「女は黙ってろ!」とやって、それに対して村人のおじさんが「キルギスでは、昔っから女が仕切ってたんだ。戦にだって行ってる、なんだその言い草は!!」と言い返すところ。あるいは、馬を持ってる金持ちのおじさんのとこにイスラム教の人たちが来て、メッカに巡礼する金をくれよ〜〜、とたかる。1人分出せば2人分、2人分出せば3人分(だったっけ?)って功徳があるんだそうな。もちろん、金持ちおじさんがハイハイと出すわけがない。こういうの、ありますよねえ、壺買ってよ、功徳があるよお、とかさ。
で、馬はどうかというと、やはり非常に重要ですが、馬乗りでないと、ピンとこないかもしれない。こいつ、馬の乗り方が荒いなあ、という奴が結構重要人物なんですが、その男は馬も自分の連れ合いも鞭でぶん殴る(こういう暴力被害者の女の卑屈さ加減も、映画は描いていて、その辺容赦ない)。しかし一方、その男はほかの奴に殴られたりしている。そういう暴力連鎖をイスラムは全然止められてないじゃないですか、と映画は語っているのだ。それを一番隅っこで黙々と受け止めてしまっているのが馬で、それを解放したい、という男の話でもあるんです。こういう暴力連鎖、結局男もそれに縛られてるってわけでね。
これはねえ、日本でも同じですよ。暴力の一番の被害者は子供&動物で特に馬は酷い。けど、それに気づく日本の馬乗りは何人いるんだ?多分いないでしょうよ。あーあ。
公式サイト P.S この映画、ちょいアクセントに「映画っていいですよね〜〜」というのが出てきます。主人公の昔の仕事が映写技師だった、というのが伏線。(多分)昔のキルギス映画がちらっと上映される、のがタマラン!!普段使っているのはキルギス語だけど、ロシア語が公用語で、というエピソードも。これは、キルギスがかつてソ連邦に吸収されていたから、でしょう。他にもあーこれ、となるシーンが意外とあるんですよ。キルギスの人は正座するのかあ〜とか。見どころが多い。キルギスにちょっと行ってみたくなる人も出てくるかもしれません。