この映画については、映画そのものより、主演の交代とそのいきさつが猛烈なインパクトで、映画の製作自体どうなっちゃうのか?という所まで行きました。恐らくはその後脚本をかなり見直したと思うんですが、その結果、とんでもない稀有な映画になったんじゃないかと思います。山田洋次監督と、スタッフ・キャストの熱量が、色んなことを吹っ飛ばしてしまいました。
お話は、もう、映画を知ってる人間なら陳腐といっていいエピソードの連なりなんです。ダメじいさんがいて、家族に大苦労させている。それが一発逆転、という、いや、そうはならないんだけど。
まず、主演を演じられた沢田研二さんですが。一言で言うと「名演」ではないかと思います。沢田さんのお芝居って、実は舞台で観たことがあって、しかも相手は志村けんさんだったんですが。志村さんとのコンビが本当に面白かったんだよなあ。この映画では、沢田さんに志村さんが乗り移っているような、しかし、沢田さんの存在感の大きさよ、という観ていて本当に不思議な気持ちになりました。こんな事ってあるんだ・・・・・。
このじいさんが、なにかと「金貸してくれ」って言う訳。不快に思った、みたいな感想も読んだけど、自分はチャーミングだなあ、と。現実だったらドタマくるとは思うんだけど、なんか笑っちゃうんだ。
その金は競馬・酒・麻雀に消えちゃって、しかも昔っから繰り返されてたみたいで、なぜにこんな奴とくっついてるのか、と娘が母親をなじる。それが、今風に言うと「それは依存症っていう脳の病気で、家族が本気で突き放さないと脱却のとっかかりさえつかめません」というのも、ちゃんと映画の中で説明されてて、それも凄いなと。山田監督は、家族の「分かっちゃいるけど〜〜〜」という葛藤もきちんと映し出しています。
もう一つ、この映画の重要なエピソードはもちろん「映画」なんですが。要は山田監督の「思い出話」だと思う。それがヘンな郷愁やノスタルジーにまみれた話にならない。話自体は陳腐なはずなんだけど・・・・・。ちょっと信じられない。。。。。往年のスターを演じられた北川景子さんがとにかく美しいです。
もう一つ、これも驚いたんだけど、今回のコロナ騒動がちゃんと描かれてます。ドラマ・映画含めて初めて観た。だから、客は観ていて否応なく志村さんを思い出しちゃうんですよ。辛いな・・・・・・。
「東京物語」の1シーンも出てきて、小津安二郎の映画を一応観たことがある人間としては、嬉しかったです。ちょっとした小津批判も出てくるし。あー楽し楽し!
ということで、映画を知ってる人間がすごく共鳴する映画だと思う。映画ファン必見!!
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