(5)おいしんぼう祇園ぽっぽ亭 その日の夕食はMM氏がウェブで見つけたという『おいしんぼう祇園ぽっぽ亭』に予約をいれていた。湯豆腐や湯葉をモチーフにした創作料理が名物ということで楽しみにしていた。店は非常に分かりにくいところにあった。
建仁寺から祇園花見小路を、舞妓さんのショットを撮ろうとして手ぐすね引いてカメラ片手にその瞬間を待ち受けている、にわかカメラマン達の群を横目に見て通りすぎ、更に四条通りとの交差点を直進し、最初の信号を右折したが、みつからない。
埒があかないので、近くの喫茶店に入り、店主に尋ねたところ、親切にも、地域の店の名前が細かく掲載されている地図を見て、探してくれた。ほぼ場所が分かり、先ほどの信号を同じ様に右折して、先ほどより先まで歩を進めたが相変わらず分からない。
また信号の方へ戻り始めたところで、やっと巴状の路地の様な通りの最初に右折した右手に。見過ごしてしまいそうな小さな字で、【祇園ぽっぽ亭】と店名が表示されているのに、かろうじて気がついたのだ。
入り口はどこにでもある小さな寺の門という感じで、その門をくぐると小さな四角い庭があり、四角の四辺のうちの一辺を位置するような配置構えの店が眼に入った。
店長
(組写真1)は三十代後半から四十代前半と思われる元気の良さそうな人で、終始我々の前で相手をしてくれた。最初に、「店の場所が分かりにくく探し回ってしまった。」という苦情めいた言にも、耳を傾け、「改善しないと。」と申し訳なさそうな顔をしていた。
東京から予約を入れるもの好きな客は珍しく、殆どの客が、地理を良く知った地元の客なので、そこまで気を回さなくて良いのだろう。
隣に女性客が座ったが、店長と親しく言葉を交わしていたので、きっと地元の常連客なのであろう。二時間ほどでその店を後にし宿泊予定のホテルに歩いて帰った。「出し焼き」という料理がおいしく値段も手ごろであり、味を堪能できた。
(6)清水三年坂美術館(その2) その日はM製作所の先輩達、同僚だった人達との懇親会があり、また学会の講演内容も自分の仕事に関係するものが無かったので、午後は再びMM氏ともども東山そぞろ歩きをすることにした。最初に、MM氏の提案で、『清水三年坂美術館』へ行ってみようということになった。初日と同様、二年坂経由で、清水三年坂美術館を見学してみようということになった。
東京に戻ってウェブで調べると、『
清水三年坂美術館は幕末、明治の金工、七宝、蒔絵、薩摩焼を常設展示する日本で初めての美術館です。』との紹介が最初に出てきた。館長は村田理如という名前で、確かに見覚えのある名前で、M製作所の創業者の弟氏である。
丁度、明治時代の七宝焼き師、並河靖之の特別展をやっていて、工芸品ではなく芸術品としての気品溢れる七宝焼きに触れることが出来た。
(7)清水寺 美術館を後にして、【清水寺】を訪れることにした。ここには電通大の鎌倉教授考案のパラメトリックスピーカが設置されていることを聞いていたので、これを見学することが目的となった。ここもMM氏同様中学の修学旅行以来の見学となった。
舞台の方へ行く前に、中学の修学旅行の時に写真を撮ったのと同じアングルで写真を撮って(
組写真2)、入場券を買い、入場門から入る時、門頭に設置されたパラメトリックスピーカが眼に入った(
写真3)。入場券の裏面には、♪松風や音羽の滝の清水を結ぶ心はすずしかるらん♪との歌がかかれている。舞台から京都の街並みを眺める景色は絶景といえる。
京都北部花背にある峰定寺の舞台とは、陰に対する陽と言える。ただ眼下の風景は峰定寺の舞台の方がはるかに神々しさを感じる。神は華やかなところには住まないだろうし、華やかなところに神は不要なのだろう。
清水寺は外国人観光客や現代っ子観光客の観賞に耐える様に、造形美や先進性を洗練させた結果、神々しさを削りおとしてしまった感がある。
パラメトリックスピーカという最先端スピーカを設置しているなんて、先進性そのものである。京都人のよく云々される気質は進取の気であり、京都にはユニークで、市場の牽引役と評価される企業が少なくないが、この京都人気質である旺盛な進取の気風に育てられたと言っても良いのだろう。
ところで、パラメトリックスピーカとは超音波の非線形効果を利用した音源で、例えば、48kHzの超音波と50kHzの超音波を同時に送信すると、差音の2kHzが音声として強い指向性をもって伝搬する。その指向角内に入った時のみ聞える、というものである。
入場者を案内している人に、「ここに立つと人の声が聞こえますね。」と話しかけたら、「人を検知するとスピーカーのスイッチが入るのですよ。」との説明だった。
この人は人を検知して照明が点灯する防犯装置を使っているのかも知れない、と思ってしまっているようだ。舞台を後にして出口に向かうとき、石垣の足元に花が、遠慮がちにさいていた
(組写真4)
つづく