万葉の夢 奈良 女人高野 室生寺 *** 「種子(シュジ)如意輪観音菩薩」 ***
近鉄大阪線に沿って国道165号線があり、ところどころ登坂車線が見られるようになってきた。時折ダンプが登坂車線をしんどそうに登って行く姿が見られる。この国道165号線、初瀬街道は大阪と三重県津市を結ぶ幹線道路で、三重県名張市、伊賀市を経て津市に至る。道なりに三重県方面に30分ほど走ると、右折すると室生寺に至る道の標識があった。如何にも山の奥という感じで、カーナビ案内によると右折してからまだ5〜6kmはあるようである。
このあたり一帯には大野寺、龍穴神社、室生シダ群落、赤目四十八滝などがあり、室生赤目青山国定公園に指定されている。また少し先の山中には、伊賀忍者の祖、百地三太夫屋敷がある。山岳信仰が醸成されやすい地なのであろう。
「大和平野の東方、奥深い山と渓谷の続く室生のあたりの一帯は、太古の火山活動によって形成された幽邃な場所で、その中心が室生山である。室生は室・牟漏とも書いていずれもムロと読ませ、土地の人もムロと言うが、ムロとはミムロという神の坐ます山のことである。・・・」と室生寺の
ホームページに紹介されている。
また室生寺は太陽信仰のメッカでもあり、古墳時代の初頭、初めて太陽の神、天照大神を祀った所とされている三輪山の麓の桧原神社という古社の真東にあり、更に真東には伊勢内宮の元の社地とされる伊勢の斎宮跡があり、この東西を結ぶ線上には、太陽祭祀にまつわる遺跡が点在していますので『太陽の道』と称しているという興味深い話が紹介されている。
さて、わがレンタカーは室生寺駐車場(有料)に停め、駐車場係員の「室生寺への入り口は太鼓橋を渡ったところ」という口案内に従い、5分ほど歩くと、朱塗りの“太鼓橋”が見えてきた。正面までくると、確かに円弧を描いた橋の向こうに「女人高野 室生寺」と刻まれた石標が見える(写真1a)。
茅葺の屋根だが門は閉ざされているので、右手か左手に歩いてゆくと山門があるのだろう。橋の下には、暑さで干しあがったように見える室生川の流れがあり、向こう側の岸辺には瓦葺の堂宇と百日紅が目に入る(写真1b)。
太鼓橋を渡って右手に向うと正面に朱塗りの仁王門が眼に入り(写真2a)、更に近づくと、目玉にガラス(又は水晶)が嵌め込まれた青塗りの力士像が入門者に睨みを利かしているのが見える(写真2b)。
また門の右手には同じ様に朱塗りされた力士像が睨みを利かせていて、赤鬼と青鬼の組み合わせを思い出させる。門をくぐって少し行って左折するあたりに梵字池(写真2c)があった。
池の反対側にはたくさんのもみじの木があり、紅葉の季節になると、この池の水面に紅葉したもみじが映り、絶好の写真撮影のアングルになることが容易に想像できる。
そして、そこを左折すると、金堂や五重塔に通ずる石段があった(写真3a)。
丁度手すりを取り付ける工事をしている最中で、来るべき紅葉シーズンに備えているのだろう。目をつむると、老若男女がこの手すりに手を架けながら、列をなして金堂や五重塔に向かう姿が見えてくる。
そして最初の階段を登りきったところに金堂があり、堂内の照明が外へ漏れている。階段を登りきったすぐのところには小さな石塔があり、仁和寺金堂の軒丸瓦に書き込まれたのと同じ梵字、即ち、種子(しゅじ)を発見した。(写真3b)。
石塔の下段に、蓮華座が刻み込まれた層があり、その上に立方形の石が載り、そこに第一の梵字が刻み込まれ、更にその上に二層目の蓮華座が載り、更にその上に第二の立方形の石が載り、そこに第二の梵字が刻み込まれている。
この第二の梵字が阿弥陀如来を表す種子で、仁和寺金堂の軒丸瓦に書き込まれたのと同じ梵字となのである。第一の梵字は複雑な字で、なにを表す種子か分からない。
ところで、阿弥陀如来は本尊でもないし、金堂内に安置されている仏像群の中にもいない。とすると同じ種子が表すもう一つの仏、如意輪観音菩薩となる。両仏は、千手観音菩薩とともに同じ種子で表されるのである。
室生寺の如意輪観音菩薩は日本三大如意輪観音像の一つで、本堂正面の厨子に安置されている。手が阿修羅像と同じ6本あるが、持ち物は違うようだ。
堂内は写真撮影禁止なので、ここに示すことのできる写真はない。堂内の風格のある諸仏の様子を室生寺の
ホームページに書かれた文章を拝借すると以下の様になる。
「
堂内の須弥壇には中尊の釈迦如来像を中心に、向かって右へ薬師如来と地蔵菩薩像、左は文殊菩薩と十一面観音像の五尊(国宝・重文、平安時代前・中期、)が並び、その前に十二神将像(重文・鎌倉時代)が一列に配されている。
五尊像は大きさや作風に違いがあって同時期のものとは言えないが、いずれも一木造彩色像で、すべて板光背を付けるのが珍しい。また本尊の背後には、他に例のない帝釈天曼荼羅を描いた板壁がはめられている。
」
“十二神将”は薬師如来を守護する役割があり、その動的な仕草が面白い。
そこから更に石段を登ると、五重塔(写真3c)に至る。この五重塔は平成10年9月22日の台風7号によって杉の巨木が倒れかかり、五層すべてで背面のひさしが破壊されるという大きな損傷を受けたことがニュースになった。
室生寺の
ウェブを見ると最初にこのことが紹介されていて、この被害に対するショックが如何に大きく、また、すぐに協力者の援助を受けて修復できた大きな喜びと感謝が文章に滲み出ている。
今も倒れかけた杉の大木があったと思われる部分だけ、木が歯抜け状態になっている(写真4a)。心柱が直撃されなかったので塔に傾きが生じなかったことや、軒の部分で大方の衝撃が吸収されたことなどが幸いして、全壊は免れたということである。
そして来た道を逆に辿り、仁王門をくぐり(写真4b)太鼓橋をわたり、途中近くの和風レストランで1300円の山菜料理を昼食として食し、次の見学先、談山神社に向った。
つづき