1)超先端動物「こうもり」と超音波診断技術
ある夏の夕暮れ時、路上に落ちていた息絶え絶えのコウモリを子供たちが不思議そうに眺めていた。同じ哺乳類でありながら、また普通に空を飛ぶ動物と認められながら、何故か不気味で陰湿なイメージを人間に与えている不幸な動物である。
しかし、その路上に落下したコウモリにしてみれば、「たいした能力がある訳でない人間の晒し者になって不本意である。人間達はやっと最近になって、コウモリ族の優れた能力を真似しはじめたばかりではないか。」と言いたいところだろう。
"超音波"をキーワードにインターネット検索すると、"超音波"を分類する主要なキーワードとして"センサ"、"モータ"、"腹部"、"医学会"、"胎児"とともに"コウモリ"が混在している。"コウモリ"以外は全て工業技術、医療技術に関するキーワードであり、これらに"コウモリ"が並示されているのは、コウモリといえば超音波、という連想からだけではなく、その優れた能力(エコーロケーションという効率的なソナーシステム)を模倣的に利用して医療技術等に役立てようとする研究[1]が進められているためかもしれない。
工業分野、医療分野ともに超音波を用いた検査、診断は非破壊性、非侵襲性、安全性から他の検査、診断方法に比べて身近になってきている。
検査、診断にもっとも要求されるのは、真実の姿を如何に忠実に検査師、診断者に伝えるかということであろう。本来あるべきものを無いように伝えたり、その逆に存在しないものを有るかの様に伝えたり(アーティファクト)、二つあるものを一つと伝えたり(空間分解能)、温度や湿度が高くなると誤って伝えたり(環境特性)、時間とともに正確な伝え方をしなくなる(劣化特性)ようでは真実の姿を忠実に伝えているとは言えない。
例のコウモリは超音波センサまたはその制御回路が異常をきたし、路上に落下し、人間の晒し者に成り果てたのだろう。先述した人間界での不都合が起こらないようにするのが技術であり、技術開発であるといえる。
人間界の超音波診断装置は近年診断機能、精度が著しく向上し、医療診断に無くてはならない装置となってきている。それだけにその信頼性は従来以上に厳しいものが要求される様になってきた。
診断装置の信頼性とは如何なる環境、時間経過後においても、あるがままの姿を高精度に間違いなく診断者に伝えることであり、その診断情報を分かりやすい形で、短時間、出来ればリアルタイムで、場合によっては複数の診断者に同時に診断情報を伝えるということも診断の信頼性の向上につながる場合がある。
診断装置のソナーシステムは超音波を送受信するトランスデューサ、送受信信号を制御する信号処理手段、信号処理した出力信号を関心者に呈示する呈示手段、及びこれらの手段を動作させる為のエネルギー供給手段からなる。これらの内一つでも機能に異常を来すと、夏の夕暮れ時、路上に落ちていた息絶え絶えのコウモリと同じ運命になる。
超音波診断装置に於いてもコウモリのソナーシステム同様、超音波を送受信するセンサ(トランスデューサ)が基本的で不可欠な手段となっている。
こうもりのエコロケーションに関する研究❒
山口大学理学部自然情報科学科生物科学講座❒
同志社大学工学部電気系超音波エレクトロニクス応用計測研究室❒
電気通信大学情報通信工学科(PPT資料)❒
東北学院大学教養学部情報科学科 >>>>> つづく <<<<<