まず動く

「動く」と,ものごとが見えてきます。仕事や旅などで動きまわり、そこで経験したことや見聞したことについて述べたいと思っています。ここで、「動く」という意味は身体だけでなく、頭も口もです。  いつまでも元気でありたいと願い、「動き」を実践しています。
 
CATEGORY:看護・介護研究について

2016/04/01 23:05:46|看護・介護研究について
注射針先の2次元力測定装置の試作・開発と実験
  研究を行う場合、誰もまだ手をつけていない研究、参考文献がない研究、ニュース・新聞などマスコミに取り上げられ社会的に評価される研究を行うように指導されてきた。そのことが頭にあってか、これまでロボットの動きを滑らかにする基礎研究(サイバネティック・モーションの研究)、動力なしで川の流れだけで川を渡る研究(自然力ボートの研究)など人がまだ手を付けていいない研究を行ってきた。分野の異なる看護学の研究者と共同研究という形で、看護・介護の体位変換時に介助者が発揮する力測定、会陰保護の研究、注射手技の研究なども行った。いずれの研究も力学が関わっている。この力学的研究は、力測定が欠かせい。力は目に見えないので、どうしても物理量の変換技術が要求される。例えば、バネ秤はバネに力がかかると伸びるので、その伸びる量を測って力が逆に求まる。ひずみゲージ(一種の電気抵抗体)という微小変位(ひずみ)が測れるセンサがある。これは、金属にそのひずみゲージを貼付すると、金属がひずむとそのひずみに比例した電気量が得られるものである。得られる電気量は微小なので、電気量を増幅する測定器が必要である。その測定装置はひずみ測定器という。
 
 板バネに力をかけると曲がるが、力を取り除くと元の状態に戻る。このような性質のある材料は弾性体といい、その典型例にバネがある。例えば飛び込み台の先端に選手が立つと台は湾曲する。それと同様に板バネの片端を固定し、他方の端に力がかかると板バネは湾曲する。板バネの固定端近くにひずみゲージを貼る。板バネ先端に力がかかり、板バネが曲がるとひずみゲージも曲がり、ゲージの抵抗値も変わる。力がかかったためにひずみゲージ抵抗値が変わり、そこに流れる電流も変わる。この電気変化を測定し、加わった力を測るというものが、今回試作した注射器針先の力測定装置である。体重も重力という力である。この重力を測る装置は体重計で、この中に上記のひずみゲージが応用されている。
 
 これまで、ひずみゲージを応用して、ロボットの手足にかかる力、自然力ボートのロープにかかる力、体位変換時の看護師の手にかかる力などを測る力変換器を試作し、研究を行ってきた。市販の測定器・測定装置では実験的研究は困難なことが多い。研究テーマが決まり、測りたい物理量(力)がわかるなら、その物理量をどのようなセンサ、どのような測定器・装置を使って測るかが問われる。
 
 今回試作した注射針先端の力測定装置は、写真上部左の材料(起歪材)を使い、上部右の写真のように組み立てひずみゲージを貼付した。写真中段は穿刺実験中の様子とディスプレイに表示された測定データである。力の大きさは、水平x方向、垂直z方向ともに50gf程度と小さい値である。このように小さい力を測るため、高感度の半導体ひずみゲージを使用した。この半導体ひずみゲージは、貼付時の圧迫力と周囲温度に影響を受けるので何回も失敗を重ねた。こうして出来上がった注射針の2次元力測定装置を使い、写真中段のように実験を行うとパソコン上にデータ曲線が得られる。写真下は開発に携わったS先生とK先生、それにKoichiである。ここ数年間開発に努力し試作に成功し、臨床看護師による実験を3月に2回ほどM病院で実施できるまでにいたった。【2016年3月11日】
 
平成28年4月1日(金) 自宅にて記す






2014/05/12 21:07:00|看護・介護研究について
針先にかかる力の測定

 5月の連休は、自宅にとどまっていた。唯一外へ出たのは映画「ネイチャー」と「アナの雪の王女」を鑑賞するためにユナイテッド・シネマ入間へ出かけたことである。その他の連休は、注射針の力測定に関する研究を行っていた。
 
 注射針の穿刺にかかわる研究は、埼玉県立大学と共同研究で長い間実施している。実験のため身体に穿刺するということはできない。そこで、皮膚モデルを作成し、そのモデルに穿刺する。採血を想定すると針先が皮膚層にまず刺さり、その後血管層を刺すことになる。そうすると穿刺する対象モデルは人の皮膚に近いものが必要である。そこで、各種のスポンジを求め、看護師資格を有する共同研究者が皮膚に近い感触のスポンジを選定。血管層に相当する素材は刺した感触から柔らかいゴム板を選んだ。こうして、スポンジとゴムで構成する幅1.5センチ、長さ5センチの皮膚モデルを作成した。そのモデルを写真1(左側の腕を模擬した白い筒の上部)の2次元針穿刺力測定装置に貼った。注射をよく行う現役の看護師20人にお願いし、いつも通りの注射を行うよう指示しその皮膚モデルに穿刺する実験を昨年暮れに行った。
 
 得られたデータを解析したところ、血管層(ゴム材)に穿刺したという情報(データの変曲点)は得られているが不鮮明であった。そこで、変曲点が鮮明に現れる方法を捜すためサンプリング周波数を変えてみた。サンプリング周期は10ヘルツで行っていた。それは普通人間が行う動作は機械の動作に比べ遅いので10ヘルツに設定しておけば大概の動作現象をとらえることができたからである。力測定器はその周波数10ヘルツのままであったので鮮明な変曲点が得られないことがわかった。
 
  そこで、サンプリング周波数を一気に500ヘルツ、1000ヘルツにして写真2のように斜めと垂直方向に穿刺する実験を行った。得られる現象は写真3のように垂直方向と水平方向の2分力である。写真4は写真2の左のように垂直にして針を速く穿刺した場合の力測定結果である。垂直穿刺であるから水平方向の力は表れていない。このデータの時間軸を拡大すると、写真4のように変曲点が目に見えはっきりと現れている。
 
 サンプリング周波数を上げると細かい物理現象をとらえることができる。その反面、パソコンのメモリがとられてしまう。針の位置決めをし穿刺するだけなら1~2秒でおわる。しかし、穿刺の構えをし、穿刺し、針を抜き取るまでの実験時間は5~10秒かかる。そうすると、今回のように1,000ヘルツで実験を行うと、エクセルに取り込まれるデータ数は5,000~10,000となる。そのときの使用メモリ量を調べたら500KB~1MBとなる。ややメモリをとりすぎかなと思う。しかしながら現在USBで8G~16G、ハードディスクなら1TB~3TB(1TB=1,000KMB)と信じられないくらいの大容量メモリが容易に入手可能である。昔のようにデジタル測定器でなにがしかの物理現象を捉えようとすると、直ぐメモリ不足になるということは今は少なくなった。したがって、古い考えを捨て今流にサンプリング周波数を上げ、よい成果を得ることが得策である。共同研究者と打ち合わせ、今後の研究計画を練り直す必要があると思っている。【2014.5.4】
 
写真1:皮膚モデル(左の白い筒の上端)と穿刺実験装置
写真2:皮膚モデルへの穿刺実験のための針位置姿勢
写真3:ノートパソコンで測定されたデータ例
写真4:左の図では変曲点不明、時間軸を拡大すると変曲点が見えるようになる
 
2014.5.7 旭中央病院にて記す
 






​注射針穿刺時の針力測定装置の開発

 毎年のことであるが、4月から7月までの前期は、講義の旅と称して、看護学校を毎日訪れている。昨年の8月から12月の後期は、講義がないので国内外の旅、ノルディック・ウォーキング、お値打ちランチを食べる会、東京歩こう会などに参加し、体をきたえていた。これとは別に、注射針2軸力測定装置の開発研究にも取り組んでいた。暮れになって納得のいく試作6号機の完成をみた。長い間考え試作を繰り返してきた注射針の穿刺時の針の力が測れる装置である。
 
 注射針を穿刺したときの針の力を測りたいと2011年に依頼を受けてから2年以上が過ぎた。その装置を試作した1号機の話しを2011年11月20日のブログに投稿した。それ以来、試作を重ね試作6号機を作った。試作を繰り返した理由は、感度不足であったり、水平力と垂直力同時測定時にそれら2軸力間に干渉があったりしたので改良を重ねた。その結果、感度、干渉ともに良好な試作6号機が完成した。
 
 写真1は、水平力と垂直力が同時に測れる装置の内部構造である。黄色のビニールテープを貼ってある箇所は板バネであってその箇所にひずみゲージを貼付してある。ひずみゲージは金属材料や構造物などの歪みを測るセンサであって一種の電気抵抗体である。歪みを測りたい材料(ここでは板バネ)にこれを貼る。材料が歪むとこのセンサも歪み、同時にセンサの抵抗も変化する。この微弱な抵抗変化を電気量に変換し、さらに増幅し目に見える電気信号(歪み情報)に変換・加工する。板バネはメカ(機械の一部)、ひずみゲージはエレキ(電気要素の一部)であるから、機械系と電気系とが一体になった一種のメカトロニクスのごく簡単なものといえる。
 
 力の測定原理は、我々がよく使うスプリング秤と同様である。スプリングは渦巻き状の長いもので、それに重りを下げると伸びるので、その伸びた量(変位量)を測ることによって重りの重さ(力)が分かる。それに対し、板バネの片端を固定し他端に重りを乗せると板バネは湾曲する。これは飛び込み台の先端に選手が立つと台が湾曲するのと同じ現象である。板バネが重りで湾曲したときの板バネが歪む量はバネの固定端に近いほど大きい。
 
 スプリングにしろ、板バネにしろ、伸びたり湾曲したりしてもそれらに加えた力(重り)を取り除くと伸びや湾曲は元の状態に戻る。この性質はバネ材が弾性体であるからである。元に戻らないような材料(例えば銅やアルミ)でスプリングや板バネを作ると、力がかかると永久変形を起し、変形は元に戻らないので秤として使えない。このように歪んでも力を取り除くと元の状態に戻る弾性体の性質(フックの法則)を利用し、その伸びあるいは歪みを測ることによって逆に力(重さ)を測ることができるのである。バネ材で力が測れるというのは、材料に弾性があるという性質を利用している。ここで開発した力測定装置も、上述の弾性体の性質とひずみゲージというセンサを組み合わせている。
 
 注射針2軸力測定装置は、上述したようにバネの弾性とひずみゲージの抵抗変化という物理の原理を使い水平力と垂直力が測れる装置である。写真2は注射針2軸力測定装置の表面に人の皮膚を模擬したスポンジを貼り、そのスポンジに針を刺す様子を示す。このとき、注射針先端の2軸(水平・垂直)の力が同時に測れる。
 
 写真2のように装置がむきだし状態では装置に不慣れな被験者(看護師)が皮膚モデルに穿刺する場合、違和感を感じる。そこで、写真3に示すように円筒発砲スチロール内部に空洞を設け、写真2の装置を腕状モデル内に収納した。写真4は、完成した注射針2軸力測定装置を使い注射針を穿刺したときに得られた測定例である。
 以上、説明のように注射針2軸力測定装置の6号機を試作し、看護師の注射の手技を数値化出来る見通しがついた。【2013.12.14】
 
写真1:注射針2軸力測定装置とひずみゲージ貼付位置
写真2:針穿刺時の水平・垂直分力の説明写真
写真3:水平・垂直2軸の針先力が測れる腕モデル
写真4:注射針2軸力測定装置を内部収納した腕モデルを使った穿刺の様子
 
2014.1.12 自宅にて記す






2012/09/03 13:46:34|看護・介護研究について
月末月初め、横浜での2日間

1日目(8月31日)
 8月31日に横浜へ泊りがけで最中を求めに行った。なにも泊りがけでなくてもよかったが、翌日9月1日に学会が横浜駅近くで開催されるので、それに参加のため前日から移動しておくことにした。ホテルは一人でも二人でもそれほど値段は変わらないので、眞喜子が横浜までいくなら最中を買いたいと言い出し一緒に出掛けた。

 月末の31日は、眞喜子に付き合い高島屋で最中を求め、その足で関内にあるコンフォートホテルへ行った。このとき、あまりにも暑いので横浜駅から関内までタクシーで行くことにした。関内のホテル前で降りるとき、メータが1520円というので1万円札をだしたところ80円の小銭がないという。20円ならあるだろうと思い、こちらも探し始めたところ運転手は結構ですといい、500円のお釣りをくれた。本来ならこちらからチップを渡さなければいけないところ半端金をおまけしてくれたタクシーに乗ったことは初めてだ。タクシーを降りてから、眞喜子は400円のお釣りくださいと言えばよかったという。私もそう思ったが、もう遅い。ホテルから中華街は歩いて行ける距離なので、チェックイン後、横浜球場の端を通って中華街へ向かった。中華レストランは沢山あるので、どこに入るか迷いながら一回りし、最終的に決めたのは聘珍樓(へいちんろう)という店である。

 我々は食べる量が少なくなったので、単品を6種ほどとることにした。アレルギーのことを聞かれたので眞喜子が卵を入れないようにと頼んだ。スープが出た。そのスープに卵が入っていた。それに対する文句は言わなかったが、フロアーマネージャーが飛んで来て、いま出したスープに卵が入っているので作り直すという。真喜子は、この程度は大丈夫といったが、先方は大変恐縮し、もしもなにかあったら連絡くださいと名刺をくれた。その後、また、もう一人背広を着た紳士が現れた。名刺を指しだし総支配人ですという。やはり卵を出したことに対するお詫びである。大丈夫である旨を伝えたが、やはり、ものすごく気にされ去った。

 眞喜子は極端な卵アレルギーではないが、出来る限り避けるようにしていている。もし、身体に異常が起こる場合を想定し薬を携帯している。今回のスープは美味しいといいながらも、食後に薬を飲み異常は起こらない。食後には頼まないデザートのサービス、帰り際には聘珍樓のペットボトルウーロン茶2本を頂戴しかえってこちらが恐縮した。おまけに、帰りがけ65歳以上ですねと尋ねられ、それなら10%お勘定から値引きしますという。上述したレストラン側の丁重な対応はこれまでに経験したことがない。2人して立派なレストランはこのような気配りや対応をしてくれるのかとえらく感心した。【2012.8.31】

2日目(9月1日)
 在職中は大学院生と毎年参加し、研究発表をしていた人間工学学会部会の「看護人間工学部会 研究発表会」が横浜の“かながわ県民活動サポートセンター”で開催された。この研究会では、発表の合間に教育講演と特別講演が行われる習慣になっている。今年の教育講演は慶応大学理工学部教授 山崎信寿先生による「本音に寄り添う製品開発」と照明デザイナー/一級建築士 戸恒浩人先生による特別講演「東京スカイツリーのライティングデザイン~粋と雅~」である。

 山崎先生は、現在の購買欲は安いか高いか二極化している、正規分布の端5%タイルの追求が面白い、機械工学→ロボット→動物の運動→バイオメカニズム→人間工学と専門分野を変え、人間の探求をされてきた。講演では、人々との自然な触れあいの機会において、ちょっとしたしぐさの観察、ふとした言葉の注意力、共感力が求められているという話し。知識やスキル以前の「気質」が大切であるとの指摘もあった。人の体形に合わせた椅子やベッドの開発、腰部負担軽減用具や器具の開発など実際にモノづくりに尽力をつくされた話であって非常に興味深い話しであった。

 戸恒浩人先生は、「東京スカイツリーのライティングデザイン~粋と雅~」と題し、東京スカイツリーの照明の話しで、開業にいたるまでの照明に関わる裏話をしていただいた。紫色照明用LEDの開発競争があり、これによって日本のLED製造技術が格段に進歩したこと。粋(すい)と雅(みやび)の照明に関わる苦労話、照明器具の設置角度精度は0.5°という。そのため器具を取り付ける基礎部位はきっちり水平を保ち、そこに取り付ける照明器具の照射方向への角度精度は0.5°以内に保ち取り付けたという。光りの周遊は2秒がよい、点燈と消灯時が美しい、雲とのコントラストが綺麗だという話しもうかがうことができた。

一般研究発表は、以下の題名11件があった。
●腰痛にやさしい椅子開発研究、
●座位姿勢と椅子の評価の新しいアプローチ
●「高齢者体験ゴーグル」装着時に見えやすい便座の色の検討
●モーションキャプチャーシステムを用いたアンプルカットの動作解析の試み
●臨床で行われる移動援助における看護師の腰部負担の実態調査、
●採血時の注射針の穿刺力と角度測定装置について
●駆血帯と抹消動脈血流速度に関する基礎的検討
●異なる刺激での心拍ゆらぎ解析による自律神経活動の比較、
●皮膚の汚れを効果的に拭き取る温タオルの使いかた、
●温罨法除去後の生体反応
●アフォーダンス視点からの盲導犬の誘導プロセスの考察

 研究発表終了後は、会場近くのとあるビル7階にある飲み放題、和創作料理店で懇親会。13名の先生が参加した。北は札幌からこられたH先生、南は福岡からこられたT先生と全国から看護人間工学に興味のある先生方が横浜に終結し、教育講演、特別講義、研究発表を行ったり聴講したりした。研究発表は15分と時間が少ないので、懇親会の席上において発表会場で質問できなかったことや、近況報告、地方の様子などさらなる議論、意見交換を行い、話は盛り上がり割り当ての2時間はあっという間に過ぎた。
 以上のように、8月1日は眞喜子と家を出て、横浜で有名な喜月堂の分厚い最中を横浜高島屋で求め、夕食は中華街の聘珍樓にて単品6品を2人でシェアした。最近は太り気味を意識し、極力美味しい物を少々食べるように努めているが、そう思うようにならず体重は横ばい状態である。9月1日は上述の学会に出席し、講演を聴講し「採血時の注射針の穿刺力と角度測定装置について」を発表した。【2012.9.1】

写真1:横浜中華街の聘珍樓で腹八分目に満たされた2人
写真2:会場となった「かながわ県民活動サポートセンター」
写真3:山崎教授の教育講演
写真4:7階の懇親会会場(和創作料理店)へ向かう先生5人

2012.9.3記






2012/01/05 23:25:17|看護・介護研究について
実験を楽しむ!  ~注射器針先の力と反り(たわみ)について~

 12月22日のブログに注射針の反りを測る装置の紹介をした。その結果、注射器に取り付けた針は注射(穿刺せんし)時に反ることがわかった。注射器を構え採血のために前腕皮膚に刺す(穿刺)角度は約20°といわれている。この角度で穿刺したときに皮膚に加わる垂直力は、前述の装置を使って測ったところ10gf~20gf程度であった。そこで、10gfの力が注射針の先端にかかったときに針はどの程度たわむのかを知るため、微小な力と変位(たわみ)を測定する装置を開発・試作した。

 ここで、10gfとか20gfという力はどの程度の力か不明なため、特定の物の重さを調べた。1個の1円玉は1gf、1枚の葉書は3gf、封書は約20gf(80円で届く重さは25gfまでである)・・・・・である。したがって、普通に穿刺するとき注射針先端にかかる力は、葉書3枚から1通の封書程度の重さに相当する力である。普段我々がこのような軽い物を持ったときあまり重さを感じない。しかし、この程度の重さ(力)が注射針先端にかかるとどのくらい変形(たわむ)するのかは不明である。そこで、針先にかかる力の測定装置と力を加える注射器の動き(変位)を測る装置を開発・試作した。いずれもひずみゲージを応用して試作した。

 写真1は注射器の先(針基)に針を取り付け、針先端を力測定装置に乗せたところである。この装置は、注射器部分がネジ機構で下げられるように工夫され、注射器が下がるとそれと一緒に下がる針先に力がかかるように設計されている。測定を行うに従い、針(針管)が反ってくるのはわかるが、針が取り付けられている根元の針基という部分も曲がってきていることに気がついた。そこで、写真2のように針基の曲がりの影響を除くように針の根元をしっかり固定する工夫をし、針の反りを測定した。写真1と写真2の方法で得た結果を比較し、針基に取り付けた針(写真1)の反りが針基の影響を除いた写真2の方法で得た結果より大きければ、予想した針基部分も曲がっているという事実が判明する。

 写真3(針ゲージ:21G)は10gfの力が針先にかかったときの針の反りを示す。この写真を見る限り針基の曲がりはよくわからないが、そのわずかな曲げの影響は、針先端に近いほど大きく現れるはずである。測定はゲージ番号18G~27Gの間で6種類行った。例えば、27G(長さ38㎜、外径0.81㎜、内径0.51㎜)を例にすると、先端の力が10gfで針基に取り付けた状態で1.05㎜の変位量が、ところが写真2のように針根元を固定すると0.58㎜と約半分の変位であった。この値は実験値であるが、このような針に力がかかった場合のたわみ量は構造力学の力を借りると理論的に計算で求まる。その計算方法は、「片持ち梁の計算」としてインターネットで公開されている。材質、長さ、外径、内径、先端に加える力を代入すると一瞬のうちに計算によるたわみが求まる。前述の数値を代入して21Gに10gfを加えた結果は0.505㎜という結果をえた。実験では0.58㎜であるから、ほぼ理論値と実験値が一致していることから、写真2のように固定した針の反りの実験結果はほぼ正しい。

 この研究は埼玉県立大学のS、K先生との共同研究として目下実施中である。何しろ対象物が小さいので実験装置も小型である。写真4は実験風景であるが、装置より実験者の姿とテレビが目立つ。今は便利な世の中で、パソコンで処理する実験データやグラフはすべてテレビで拡大して見えるので、自宅で行う実験はこのような点で便利である。

 新春早々に上記したデータが取得できるようになった。今年は注射針が曲がることを考慮した穿刺法、また、針先のカット面(RB、SB)が穿刺時の力に及ぼす影響などの疑問が明らかになる。詳細は学会で発表することになるが、実験して驚いたことは針ゲージ27G(長さ38㎜、外径0.41㎜、内径0.19㎜)では、わずか10gfの力で6.6㎜もたわむということがわかった。そして、針が細いので針先に力がかかって曲がるのは針そのものであって、針基には力が伝わらない。そのため写真1と写真2によるたわみの結果はほぼほぼ同じであることも分かった。これは、針先の力は針の反りに使われ、針基を曲げるに至らないのである。【2011.1.2】

写真1:注射器の先端(針基)に取り付けた注射針
写真2:注射針の根元を固定した針
写真3:針先に10gfがかかった場合の針ゲージ21Gの反り
写真4:注射針の反り実験風景

2012.1.5 記






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