| あのシルクロード第十二回 【D4-7:ウルムチ・天池から五彩湾へA】 五彩湾観光は、当初自分が希望した観光地には入っていなかった。ところが、ウルムチ出身の張さんも訪れたことがなく、また写真をとることが趣味である彼にとって、五彩湾の夕景は垂涎の出る被写体で、見逃すことは出来ない。自分も写真を撮ることが好きだと駱さんに以前から表明しているので、是非一緒に行かないかと誘われ同行することになったわけである。当初天池一日、五彩湾一日と計画したが、私がウルムチに着く時刻が深夜であること、夕刻近くに五彩湾に着くようにするため、天池と五彩湾をセットにしたコースになったわけである。 1)移動途中の光景、五彩とは、湾とは、どのような地形? 2)GSで給油、時計を見ると時刻は夕刻、だが真ッ昼間のように明るい 3)野生の馬に遭遇、群れではなく、こちらを振り向くでもない。 4)五彩湾入場門 5)斜面に断層が現れ、色彩豊かな小高い山(丘?)があちらこちらに 6)異なる表情を見せ、どの小山も断層の境界線の位置は同じ 7)五彩湾ハイライト地点の麓 8)色々な動物に見えるシルエット 9)様々なシルエットを提供する場所毎に異なる容貌の小山 10)そのシルエット羽を広げ空を飛んでいる蛙怪獣、”ケロゴン”か 11)乙女の探査 12)小山の山肌に刻まれている自然の造形の変化 13)五彩色の時間的変化 14)麓の方から眺めた時に,最も高くみえた小山に登頂 15)ひび割れして、柱状結晶からなる層状剥離片がばらまかれたかの様に散在 16)青板ガラス(鉄イオンを溶解したガラス)の様な破片 1)移動途中の光景、五彩とは、湾とは、どのような地形? ウルムチ、天地、五彩湾は倒立した三角形の三点A,B,Cにあり、下の頂点Aがウルムチ、上の右側の頂点Bが天池、そして上の左側の頂点Cが五彩湾である。辺ABの長さは110km、辺ACの長さが160km。そして、このセッション「天池から五彩湾へ」は辺BCを移動するのである。この移動は変化に富み、五彩とは、湾とはどのような地形を言うのであるか、興味深々の車中の旅で、全く飽きの来ない道程であった。本稿は、この移動途中の光景を綴ったものである。ここではそれまでの国道に別れを告げ、地形がダイナミックに変化し、走行する道路は舗装されていず、砂埃を舞い上げ、凹凸の激しい道を耐久レースの様な感覚で目的地にたどり着こうとする過程である。 国道からそれる直前では、トルファンで見たような縦縞に風食された小高い山がみえた。山とその周囲に緑は全く認められず、その色はダーク・グレーであった(写真1)。 2)GSで給油、時計を見ると時刻は夕刻、だが真ッ昼間のように明るい そして、少しゆくと分岐点に差し掛かり、ここにあったガソリンスタンドで給油。給油の間、車から降り、まわりをみると色鮮やかな小高い丘が目にはいった。茶色というよりピンクというべきかも知れない(写真2)。ここで北京時間で、19:17、ウルムチ時間でも17:17で夕刻に近い。 3)野生の馬に遭遇、群れではなく、こちらを振り向くでもない。 国道からすでに逸れた道に入りこんでいるが、次に見えた有彩色の小高い山、これも橙色と言って良い鮮やかな色である。(写真3) そして更に進むと珍しい光景に出くわした。やや草原がかったところで、野生の馬が一頭だけ、草原に戯れている姿が目に入った(写真4)。この時、天池からすでに3時間、五彩湾真近のところまで来たようだ。 【D4-8:ウルムチ・五彩湾@】 4) 五彩湾入場門 北京時間で、20:18、天池から約4時間かけて、やっと五彩湾入場門にたどりついた(写真5)。ここで入場料を支払い、門をくぐり、ハイライトとなる場所に更に車で乗り入れる。 入場門が落す影が相当長くなっているのに上空がいまだ暗くないのは、斜めに地上に射し込む太陽光線をさえぎる山などが、広い範囲で無いからであろう。 5) 斜面に断層が現れ、色彩豊かな小高い山(丘?)があちらこちらに そして更に奥に進み、斜面に断層が現れ、色彩豊かな小高い山(丘?)があちらこちらに見えるようになってきた。(写真6)夕刻なので、僅かな凹凸でもブラックストライプが入りコントラストがはっきりしてきて山の表情が豊かになる。 6) 異なる表情を見せ、どの小山も断層の境界線の位置は同じ 形が似ていて、すぐ隣同士の小山でも,縦縞線の配列密度や色彩に差異があり、異なる表情を見せる(写真7)。この写真でも左側の小山は色が赤茶けているが、右の小山は色がモスグリーンで、縦縞の配列密度が左側よりも小さい。ただ一つ共通しているのは、断層の境界線の位置である。 この様に色が異なるのは、同じ鉄を含んだ鉱石でもその鉄のイオン価が三価の場合(赤茶)と二価(青)の違いか、鉄を含む鉱石(赤茶)と、ニッケルや銅を含む鉱石(黄緑)との違いかいずれかであろう。新疆・ウィグル地区の鉱物資源は鉄、ニッケル、銅、錫、石炭とのことなので後者の憶測がなり立たないわけではない。鉄錆の赤茶か、青板ガラスの青(緑)か。 7) 五彩湾ハイライト地点の麓 北京時間で、20:30ついに五彩湾ハイライト地点の麓まで来た。ここまでは水平移動だったがこれからは断層の見える小高い山に登ってゆき、もっとも眺望豊かな小山にたどりつく、と言う垂直運動が主の移動となる(写真8)。人の影も相当長くなり本格的な夕刻に入って行く。張さんにしたら時間配分がうまく行き、ニンマリというところであろう。 この山登りに対して、何の注意書きも断り書きもない。気の向いた小山を選び注意深く昇って行くのみである。他の4人は自分より15歳以上も離れている。体力の差は明らかである。しかし、身体と気持ちを奮い立たせる絶好のチャンス。頑張って付いてゆくことにした。 【D4-9:ウルムチ・五彩湾A】 8)色々な動物に見えるシルエット 湾の中に入ってみると、色々な形の小山があり、そこに夕陽が当たり、シルエットを演出する。シルエットは、その気になると色々な動物に見えたり、人に見えたりする。空に浮かぶ雲の形が色々な動物に見え、それが潜在的な自分の心象を表したりするのと似ている。 9)様々なシルエットを提供する場所毎に異なる容貌の小山 雲は時間的に刻々と変化して行く。即ち、時間軸に対する変化である。それに対し、ここでは場所毎に異なる容貌の小山がたくさんあり、それぞれ異なるシルエットを提示する。即ち空間軸に対する変化である。 写真9のシルエットは、二人の人の顔で、上のシルエットはやや上を向いた顔、そして、下のシルエットは水平方向を眺めているように見える。 10) そのシルエット羽を広げ空を飛んでいる蛙怪獣、”ケロゴン”か 写真10のシルエットは、羽を広げ空を飛んでいる蛙怪獣、”ケロゴン”か。 11)乙女の探査 そして写真11は、両耳もとで、髪の毛を丸め、空中を飛びながら地表にある何かを探している乙女の姿か。 12) 小山の山肌に刻まれている自然の造形の変化 シルエットだけでなく、小山の山肌に刻まれている自然の造形も、見ようによって、いろいろな姿に見える。写真12も然り、狼が口をあけ、何かに襲いかかる直前の姿そのものである。 この様に、ここ五彩湾の小山はそれぞれ異なる姿を呈しているが、もし西遊記に現れる三蔵法師の一行がここを通過していたら、どの様な妖魔を登場させただろうか。 断層の境界から黒い汁が染み出して来て、それがシルエットと化し、三蔵法師に向かって、「何千万年もの間、断層の境界に閉じ込められた霊魂で、閉じ込められてしまったために、霊魂は三途の川へも旅することが叶わず、成仏できていない。お経を読んで成仏させてもらえないか」と言い寄り、お経を読み始めたら三蔵法師を罠に落とし、まるまると肥えた新鮮な肉を食べてしまおう、という下心があった。かも知れない。 妖魔たちは何千万年もの間、乾いた空気ばかりの食事で、水分、たんぱく質、脂肪といった栄養にありつけなかったのであり、これらの栄養素を口にしないと、もはや生きて行くことが出来ないところまで来ていたのだ。必死の形相をしまって、ごく柔らかく、人間に好かれるシルエットに化けて三蔵法師一行を、襲おうとしていた。かも知れない。 シルエットや自然の造形を眺めていると、ついついその様な妄念が次々と頭をよぎるのであった。 【D4-10:ウルムチ・五彩湾B】 既に時刻は北京時間で21:30、ウルムチ時間でも19:30、普通であれば、夏とは言え夜の帳の落ち始める頃。しかしここには地を這うような太陽光線を遮るものが無いため地平線のかなたに太陽が落ちるまで明るいのだろう。 13)五彩色の時間的変化 この時刻でも、陰によって覆われていない小山は小山の断層と、断層ごとの色を明瞭に識別できる(写真上1)。その色は、黄土色、だいだい、白灰色、黄色、赤茶色、で時刻とともに五彩色が変わってゆくようでもある。このうち頂上を覆っているのは、グレー、黄土色、白,黄緑色の場合が多く、赤茶色は殆どの場合、断層部を彩りしている。(写真上2)。 14) 麓の方から眺めた時に,最も高くみえた小山に登頂 膝をがくがくさせながら、ついに麓の方から眺めた時に,最も高くみえた小山に登りつめた。振り返って見ると、眼下に他の小山群や、駐車してきた車や米粒の様な小ささの人の姿が見える(写真上3)。また足元の地層は、ヒビわれを開始しているようにも見え、下手すると体重によって、その地層(厚さ20mm程度)が層状剥離を起こし、人もろとも落下するのではないかという恐怖に囚われた。その一方で、この素晴らしい眺望にしばし見とれ、胸の奥に非破壊の記憶に残る様、しっかり眺めるばかりであった。 15)ひび割れして、柱状結晶からなる層状剥離片がばらまかれたかの様に散在 ところで、この足元の地層の一部は既に粉々にひび割れして、層状剥離し、その剥離片が至るところに散らばっている。その剥離片となる直前の断層を所々で見かけた(写真上4)。この剥離片の断面を観察すると、厚さ20程度の剥離片は二層または三層になっていて、中央部の層は、おなじ高さに成長した柱状の透明な(単)結晶がびっしり面状に配列し、その両面、または片面を砂礫層が覆っているという構造になっている。 この砂礫層は層状剥離に関与しているようで、剥離片の両面に付着している場合もあるし、また片面のみに残っている場合もある。この砂礫層には無数のキラキラと星の様に輝く結晶片が散りばめられている。 この柱状結晶が何であるか、きわめて興味深く、小さな破片を拾ってウェスト・バックの小さなポケットにしまいこんだ。いつか調べてみようという訳である。その場での推測では、水晶、石英系の結晶と観たが、分析してみないと分からない。後日、それを専門家に見てもらい意見を頂いたがそれについては後述する。 16)青板ガラス(鉄イオンを溶解したガラス)の様な破片 その様な魅力一杯の五彩湾だが、一つだけ気になったことも記しておく。前記した剥離片がいたるところに散在しているのだが、ところどころに青板ガラス(鉄イオンを溶解したガラス)の破片が散らばっていて、これは自然に現れたのではなく、人がばら播いたのではないかと思わせるような散らばり方をしているところが、何箇所もあったことである。黄緑色に見える正体がこれではないかと疑いたくなってしまったのは残念なことであった。 ただ5年ほど経った時に専門家に見てもらったが、青板ガラスでも水晶や石英系の決勝ではないことが分かった。分からないままにしておく方がロマンがあって良いかもしれない、ということで五彩湾の稿を完としたい。 この稿 完 次稿に続く |