西方流雲(57)
<<< 54. 脱神戸、知日の旅 >>>
( 六 )
十月に入って最初の月曜日、いよいよ知日の旅のスタートである。東伝と紅蓮は、阪急電車の西宮北口駅で待ち合わせることにしていた。 紅蓮は、前日、しとしとと秋雨が降る中、中村恵美子と彼女の母、そして何秀麗が眠るメモリアルパークを訪れ、これまでのお礼と暫しの別れを告げた。 目をかなたにむけると、雨のベールで霞んだ神戸港が見えた。ついでに二年間住み親しんだ神戸の町ともお別れである。 神戸の町で関わった人達の顔を思い浮かべ、交わした言葉を追想したが、自分にとって重きをなす言葉を投げかけてくれたのは、このメモリアルパークに眠る三人であった。
紫陽花の花は殆どがしおれかけていて、自分が神戸を離れることを寂しがっているように思えた。その中からまだ色彩が豊かで、輪郭がはっきりした紫陽花の花を三輪、切花にして手に携えてメモリアルパークを引き上げた。 1時間ほどして、店に戻った。店は既にたたまれ、店の看板ははずされて、店の中にしまいこまれていた。 紅蓮は早速、採って来た紫陽花を花瓶に生けた。最後の紫陽花の姿がそこにあった。
その日の夜、何息子夫妻、高校生アルバイト、コック見習い、紅蓮の五人のささやかな解散会が開かれた。店用に蓄えてあった食材の残り全てを使って、何息子とコック見習いが腕をふるった。 高校生アルバイトは色紙とマジックペンを手にしていたが、店内のテーブルを二つ隣合わせに配置し、各辺に二つづつ椅子を配置した。何息子の妻が故何秀麗と故中村恵美子のサービスサイズの写真を持ってきて、紅蓮の座る席の隣に故中村恵美子の写真を、そして何息子の隣に故何秀麗の写真を置いた。 それを見た紅蓮は、自身の財布から写真二枚を取り出し、見比べた上で、何秀麗の写真の隣に中村恵美子の母の写真を置いた。こうして隣合わせのテーブルの辺の八つの座席は過不足なく全て埋った。 上から見ると、紅蓮の隣に、中村恵美子の写真、その隣に中村恵美子の母の写真、その隣に、何秀麗の写真、その隣に何息子、その妻、コックみならい、アルバイト高校生であった。 最初に何息子が挨拶し、その後は各自思いで話を紹介しあい、最後に何息子が、 「これは、こうなることを見越していた母の遺言で、皆さんへの餞別ということで母が残していったもので、皆さんにお渡しします。金一封ですがどうかお受け取り下さい。まさか中村さんまで亡くなるとは思わなかったのでしょう、ここに四袋ありますが一袋余ってしまいます。これをどうするか相談したいのです。」 すると、コックみならいが、 「中村さんと一番仲の良かった紅蓮さんに使ってもらったらどうでしょうか。」 と最初の提案をした。 その隣に座っていたアルバイト高校生の馬場君も、そうだ、そうだと言わんばかりに頷いた。しかし紅蓮は、 「恵美ちゃんに残されたものを私が受け取るわけにはいきません。また私の分も、もっと有意義に使える人に使ってもらった方が良いのではないかと思っています。」 と言い、何息子の妻に同意を得たいという眼差しを送った。 何息子の妻は、 「困ったわね!ここにいる三名の方には遺言なので受け取ってもらわなくてはならないの。中村さんの分をどうするかだわね。」 と言って、意見を求めた。 それを聞いた紅蓮は、眼差しを今度は馬場君に向けて、「馬場君のところは、今お父さんが病気で入院中で大変なのでしょ?この間、馬場君が、多分相手はお父さんだったのではないかと思ったのだけど、私と恵美ちゃんがいたところに電話の声が聞えてきてしまったの。その時、馬場君が頑張っている様子が手にとるように分かり、自分達も何か協力できることは無いかと話題にしたことがあるの。今もそうか分からないけど、受け取る人としては適任だと思います。」 それを聞いた何息子は、 「そう言えば、母からその様な話を聞いたことがある。母と馬場君のお父さんは高校時代の友達らしく、それが縁で、うちで働いてもらうことになった、ということを聞いたことがあります。紅蓮ちゃんが言うように適任というように思います。」 ということで、その一件は落着し、馬場君が準備した二枚の色紙にそれぞれの言葉を書き残した。 そして、馬場君が、 「思い出沢山のこの店が解散になってしまうのは残念でなりません。今日は紅蓮さんが受け取ってもよいと思っていた中村さんへの餞別まで頂いてしまって、なんとお礼を言って良いか分かりません。皆さんに書いていただいたこの色紙を一生大切にして行きたいと思います。有難うございました。実は先日入院中の父に外泊の許可が下りまして、父の希望で、メモリアルパークに連れて行ったのですが、『紫陽花の花がこれほど美しいとは思わなかった。お前が、この紫陽花園に生えた雑草やゴミを掃除せんといかんな』と言いつけられました。僕も、絶やすことなく店の中に紅蓮さんによって生けられている紫陽花を見ているうちに好きになりました。これからも紫陽花の花を見るたびに皆さんのことを思い出したいと思います。」 この馬場君の挨拶に、この場にいた全員が拍手喝采し、その後まもなくお開きとなった。
紅蓮は昨夜の暖かい人達に囲まれた解散会を西宮北口に向かう電車の中でこのように思い出していた。
紅蓮にとって、二年ぶりのおおきな別れであった。 人との間には出会いがあれば必ず分かれもある。自分にもこれまで生きてきた歴史があるが、出会った人にもそれぞれ生きてきた歴史があることを忘れてはいけない。 それにどのくらい関わることが出来るか分からないが、誠心誠意、真心をもって付き合ってゆこう。 この二年の間に、三人の歴史の終端を見てしまったけど、それを忘れてはならない、と自分に言い聞かせた。
雨はすっかり上がり、素晴らしい秋晴れである。 東伝は先に着いていたようで、約束の梅田行きホームのベンチで本を読んで待っていた。 いつもの東伝とは異なり、スーツに革靴という出で立ちで、姿勢も背をしゃんと伸ばしていたので、七十を越えているとはとても見えなかった。 近づいてきた紅蓮にすぐ気がついて、 「旅立ちに格好の晴天だね。今日は最初に阪急電車の池田で下りて、すぐの様だ、呉服神社は。」 と笑顔で語りかけて来た。そして、 「荷物はそれだけかな?自分はこのスーツケース一つだけだが、動きまわるのには邪魔なので、駅のコインロッカーに預けて行こう。 今夜の宿は京都の北の方にある峰定寺というお寺の近くにある宿を予約してある。そして明日の宿は京都の南にある宇治というところで、宇治平等院、黄檗万福寺を訪れようと思っている。黄檗(おうばく)万福寺では丁度重陽(ちょうよう)の節句の時期で、ここには多くの中国人が訪れるらしい。久しぶりに同国の人達と中国語で過ごせるかも知れないよ。」 と、今日、明日のスケデュールを紹介した。 自分の服装が見劣りしていると思った紅蓮は、自分のジーパン姿をながめ回しながら、 「私は、母から受け取った服と、蘇州を離れる時、父から受け取った古物と簡単な身の周り品だけ。このスーツケースの内容物で全て。それより東伝さんは随分若々しくみえますね。」 「その理由は道々説明しよう。ほら電車が来たよ。十三で宝塚線に乗り換えだよ。」 車内は十時を過ぎていて、通勤通学ラッシュ時を過ぎていたので、隣合わせで座ることが出来た。車内ではお互いに昨夜のことを紹介しあったが、紅蓮がしゃべりつづけているうちに十三に着き、そこで乗り換え、続きの紅蓮の話だけで池田に着いてしまった。
東伝は池田駅に着いた途端に、駅の近くに喫茶店を見つけ、 「紅蓮ちゃん、旅のはじめに、これからの予定について詳しく話しておきたいのだけど良いかな。少し早いがお昼もここで摂ってしまおう。」 「すみません。自分ばかり話して。予定を有る程度、頭にいれておいた方が東伝さんの足手まといにならないと思うわ。多少おなかもすいたし。」
東伝と紅蓮は、スーツケースを駅のロッカーに預け、駅のすぐ前の喫茶店「くれは」に入って行った。 昼に近かったが、店内には他に客は見られず、紫煙も漂っていず、まだ清浄な雰囲気がする空間であった。 窓から初秋の陽射しがテーブルの木目を明晰にし、窓の桟には赤黄白の小輪の菊の花が小瓶に生けられていた。二人はそんな窓よりの座席に対面する様に座った。東伝が先に、 「紅蓮ちゃんは理想的な別離をしたようだね。それに比べ、わしの場合は出立の準備で疲れてしまって、アルコールが少しはいっていたこともあり、居眠りをしてしまい、挨拶も充分にせずに出てきてしまったよ。」 と、東伝は昨夜のことを思い出しながら語りはじめた。 東伝は酒は好きな方であった。そして、伊丹、池田あたりには、白雪や呉春という銘柄の日本酒があることを知り、一時は、伊丹の小さな料理屋をみつけては入り浸って、その店に出入りする客を観察するようなこともあった。 特に、呉春は呉東伝の呉の字がついた酒であり、特に興味を持っていて、詳しくこの酒の謂れを調べたことがあった。 そして、その店に出入りする客の中に、呉春に強い興味を持っている若い客がいることを知り、たまたまその店で同席した時に、調べた結果を講釈したことがあった。 そして、その客は「うすき」と名乗り、後日、その店の女主人から薄と書いて「うすき」と読むことを聞いた。 ところがしばらくして、読み方を忘れてしまい、薄という漢字の名前であることだけを覚えていた。紅蓮の苗字と同じなので覚えていたのである。 しかし読み方は、いつのまにか、「ボー」となっていた。 昨夜はウイスキーグラスに痲頽酒という度の強い酒をなみなみついで、一気に飲み干したのであったが、唇をグラスにつける前に水面ならぬ酒面を暫く眺めていたのであった。 蛍光灯が映る酒面がゆらゆら揺れている場面が、一気に飲み干した後に脳裏にいつまでも残像し、時間と共に酒面に映った像が鮮明になってきていることに気がついた。 斜めから酒面を覗いているので、その像が自分の反射像で無いことだけは確かであった。 時間とともに、益々像は鮮明になってきたが、酒面に映っている像を見ているのか、脳裏に映っている像を認識していうのか分からなくなってきた。 いずれにしてもその像は明らかに、東伝が蘇州の太湖のほとりにある船宿を旅立つ時に、夢の中に現れた崑崙の仙人そのものであった。ただこれまでと異なるのは、崑崙の仙人の背景も明晰に移っていることだ。 その背景は冠雪した険峻な峰々であり、崑崙の仙人は左手に背丈ほどある杖を持ち、右手をその峰々のある一点を指差しているのである。 視線をそちらに移すと、一点が青紫色に明るく点滅しているのに気がついた。 東伝が蘇州の運河の河べりで初めて紅蓮に出会った時の光景が酒面に再生された。 彼女の透き通る様な首肌に小さなペンダントが架かっていた。それに夕陽が、直射して朱色に輝いた。首肌は夕陽によって益々紅く染まり、それをみた呉東伝はいつかこの少女を描きたいものだと独りごちた。 近づくと、紅蓮はペコリと頭を下げて挨拶した。その瞬間、そのペンダントは彼女の首元でチャリと音をたてながら踊り、三つに割れた。 もともと三枚が重なっていたのだろう。外側の二枚は、夕陽に照らされて朱色に染まっていたが、挟まれている残りの一枚は一瞬だけだが青い色をしていたのを認めたのだった。 材質も、チャリと聞こえた音や紐を通す穴のあけ方からいって、璧であることは察しがついた。 ここまで来ると、今認識している像は夢の中に現れている像かも知れない。 だとしたら、夢から目覚めないで、夢に入り込み、かねてから聞いてみようと思っていたことを質問してみようと考え、思い切って、声を出してみた。 「自分と、紅蓮ちゃんは意図したとは言えないまでも、いいつけ通り東の国にやってきました。しかし、この東端の国で何をしないといけないのか、いまのところ皆目見当がつかないのです。ヒントでももらえませんか?」 すると仙人は深い顔の皺を更に深くして、 「そう焦ることはない。だが更に東を目指すが良い。」 と語りかけ、更に、 「一人を救うのも、万人を救うのも重さは同じじゃ。薄の里を目指すものを救え。」 と言って、酒面に波紋が現れるとともに崑崙の仙人は消え去った。
東伝は、 「そう焦ることはない。だが更に東を目指すが良い。」 「一人を救うのも、万人を救うのも重さは同じじゃ」 と、仙人が発した二つの言葉を呟き返した。 突然、紅蓮の顔が前面に現れ、 「『そう焦ることはない。だが更に東を目指すが良い。』て何のこと? 『一人を救うのも、万人を救うのも重さは同じじゃ。薄の里を目指すものを救え』て何のこと?」と尋ねてきた。 東伝は、紅蓮につい先程夢想したことを丁寧に説明してあげた。 しかし東伝は皆目検討がつかず、 「これからのこの国、日本を知る旅で、その答が見つかれば良いのだけど。」と言って、もう一つの話題に切り替えた。
「紅蓮ちゃんが看護婦になる話だが、紅蓮ちゃんも本を読んである程度のことが分かったと想うが、日本というのは、資格社会というか、学歴社会で、看護婦になるためには国家試験に合格する必要があり、国家試験を受験できる資格も必要で、その為には義務教育の六年、三年は修了していることは勿論、その後、看護専門学校等の専門教育を受けることが必要なのだよ。紅蓮ちゃんは中国で、義務教育の六年、三年相当は修了しているけど、日本に来てからは日本語の勉強だけで、他の科目はこれからだね。そこで、提案だけど、というよりほぼ手筈を整えてしまったのだけど聞いてくれるかな?」 紅蓮は、自分自身の人生に関わることなので真摯に耳を傾けていたが、突然頬を伝わるものがあった。そして、 「本当に親代わりに私のことを考えてくれるのは東伝さんだけかも知れない。東伝さんの言うことには間違いないと父が言っていた。だから私は東伝さんがいうことにはなんでも従うわ。」 と言い、心からの感謝の気持ちが東伝にひしひしと伝わってきた。 東伝は、おそらく紅蓮は、中村恵美子の遺産問題で、富樫夫妻にさんざんいじめられ相当参っていたのだな、早めに神戸を退散して良かったかも知れない、と独りごちた。 そして人としての生き様を間違いないものにするための処世訓的なことばを紹介した。 「わしを信頼してくれるのは有り難いし、わしらが崑崙の仙人の言いつけを守るためには、わしら二人で三人前の感受性を備えんといかんと思うので、暫くはわしの方を向いていて欲しいが、これから言うことも重要なので、気にしていてもらいたいのだよ。」 「わかったわ。難しい話?」 「うん、難しいといえば、これほど難しい話は無いかも知れないが。・・・、これから紅蓮ちゃんが様々な経験をしてゆくことになるが、その都度、その経験を振り返るとき、あるいは、これから新たな経験をしそうな予感をした時に思い出したら良いと思う言葉だよ。」 「私に理解できることばだったら良いけど。自信ないな。どういうこと?」 「この世の中は空間と時間で成り立っていて、そこに存在するのは、天、地、自分、人であり、自分の行いというのはそれらの存在によって知られているんだよ、という話で、“天知る、地知る、人知る、我知る”という言葉なのだよ。 この言葉は自分を後押ししてくれる言葉でもあり、自分を拒絶する言葉でもあり、天というのは神でもあり、先祖でもあり、亡くなった父母などの近親者の霊でもあるのだよ。」 「それだったら、東伝さんの夢に時々出てくる崑崙山脈に棲む仙人はどれに属すの?」 「きっと天だな、あるいは我かも知れない。」 「わしの言いたいことは、紅蓮ちゃんの周りにはわし一人がいるのではなく、天、地という存在や自分自身を見つめる我がいて、決して独りということは無い、ということを覚えていて欲しい、わしの存在は“人”に対応するのだろうね。この国、日本では、天イコール神イコール仏という感じだが、実は神と仏というのは違う存在で、今日これからゆく呉服神社は神を明日行く予定の峰定寺、寺、万福寺は仏を祀るのらしい。」 「やはり、私にはむずかしそう。」 「いや、そんなことは無いが、こういうことは実感してみないと理解できる話ではない。これからの紅蓮ちゃんの様々な経験をしてゆく中で理解して行けば良いと思う。経験するのも、きっかけと、道筋が重要で、わしは、紅蓮ちゃんのお父さん、お母さんと約束した手前、そのきっかけ、道筋をわしが作らねばならないという強い思いがあって、さる人の協力も得て、次に言う様なシナリオを作ってみたのだよ。」 「へ〜!どんなシナリオかな。ドキドキするわ。」 「東京へ行って看護婦になる勉強をするということで、崑崙の仙人の言う『更に東をめざせ!』というのは東京を目指せという意味ではないかと思うようになってきてな、東京へ行って看護婦になる勉強をせよ、というお告げとおもったのじゃよ。」 「なるほど東京ね。日本の首都ね。ところでさる人の協力というのはどの様なことなの?」 「さる人というのは、安里看護婦長のことで、紅蓮ちゃんには、彼女には頼り過ぎない方が良いと言ったが、看護婦のことについては彼女が一番良く知っているはずだ。彼女の経験を聞いてみるのが最もてっとり早いということで、つい最近、彼女の経験談を聞き出したのだよ。そうしたら彼女が、『どうしてそんなことに関心があるの?』と聞き咎めてきたので、わしは、この話は内密にして欲しいと断ったうえで、わしは『紅蓮ちゃんが看護婦になりたがっているので希望を叶えさせてあげたいのだ。』と披露した。ところが彼女は『そういうことだったの。それなら私も同じ気持ち、せんだっては、紅蓮ちゃんには申し訳ないことをしてしまって、何か償えることは無いかと考えていたところ。私が東京で看護婦になる勉強していたころ、いろいろな面で助けていただいた人がいるの。その人の娘さんで、今は喫茶店の女主人だけど、甥が東京でも知名度の高い山の手病院の医者をしていて、優秀な看護婦をいつも募集しているらしいの。紅蓮ちゃんは、昼間は看護婦専門学校に行き、夜は定時制の高校に通って、一般教養も身につけるといいわ。 そして少しでも学資を稼いだ方が良いのならその喫茶店に住み込みし、少しゆとりのあるときはお店の手伝いをしたら良いわ。きっと住居費はただになるわ。それに、東京近郊の看護学校へ通う場合、ラッシュにもまれないで良いと思うの。どうかしら?』と言われたので、わしは、 『そんなうまい話があるのか?』と聞いてみたのだけど、驚いたことに彼女は既に、そこまで手を回していて、住み込みの話等既にその喫茶店の女主人にさぐりをいれて、内諾を得ていたのだよ。それだったらそれに身を委ねても良いのではないかと思い、紅蓮ちゃんの意向も聞かず、話を進めさせてもらっているのだよ。ごめんね。先走って。」 「東京へ行ってからの生活は、看護婦専門学校への入学の手続きを含めて、安里看護婦長とその喫茶店の女主人とで、お膳立てしてくれることになっている。」 「とんでもない。そこまで話が進んでいるとは予想もしていませんでしたが、本当に有難うございます。感謝しています。」 「紅蓮ちゃんは、西遊記ならぬ東遊記の主人公かも知れないね。西遊記では菩薩が三蔵法師一行が行く先々で、危難に会わない様に、護法の諸天、六丁六甲、五方掲諦(ごほうぎゃてい)、四値功曹(しちこうそう)、十八羅漢を常時配置させたのだけれど、紅蓮ちゃんにも菩薩が遣わせた神々が侍っているのかも知れないね。さて、昼食をとるのに丁度良い時刻になったね。わしはサンドイッチにするけど、それでは若い紅蓮ちゃんにはもの足りないだろう。チャーハンとかオムライスはどうかな?」 「それでは、チャーハンにするわ。」
そして、喫茶店の中は昼に近づいてきて混み合ってきた。食事を終えて、呉服神社に向かうことになった。
<<< つづく >>> |