この映画、観たかったので、アイポットでやってくれてるのは本当にうれしいです。観てよかったなあ~~、という余韻に浸れる映画をまた一つ見つけることができました。邦画というのがいいわあ。
ただ、この映画は間口が狭いんですよ。重要なプロットが演劇なんだけど、それも近現代の大傑作であるところの、ベケット作「ゴドーを待ちながら」&チェーホフ作「ワーニャ叔父さん」の2作が出てきます。そもそもお話自体が、「ワーニャ叔父さん」を稽古して上演する、話なので、チェーホフのこの作品中のセリフがあちこちに出てきて強い意味を示唆する、仕組みになっています。映画越しに「ワーニャ叔父さん」を見せられている、と言ってもいい。しかし、ベケットだのチェーホフだの、知っている人がいるのかどうか?
自分は知っている。ベケット作品は読んでる。チェーホフも知っている。「ワーニャ叔父さん」は読んでいないが、「かもめ」は読みました。どっちの作品も、読んだときはピンとこなかったんですけどね。知っているかどうかは、この映画の印象をかなり変える可能性が高い。
この辺は、いかにも村上春樹原作作品だな~~~、と思わされる。中で流れるベートーヴェンの弦楽四重奏3番だって、知ってる人は知ってるけど、知らん人は興味すらないでしょ。な~んか、インテリ知識をひけらかしている感じがして、鼻につくんですよ。だもんで、村上春樹ってあまり好きじゃないんですよねえ。
ただ、こういう映画を観ると、そうした知識ってやはり重要なものだな、とも思うんです。間口の狭さを突破できる知識情報を持っててよかったな。で、劇中劇とはいえ、この傑作を上演した役者さん達はやはり凄いと。
劇は重要なんですが、結局この映画のテーマは「時間」なんです。自分はそう読んだ。人が色んなことと折り合いをつけるって、3日じゃ無理でしょ、それなりの時間とタイミングと運が多分必要なんですよね。そういう話です。だから長尺になるし、予告編は非常につくりにくい。予告編ではチェーホフなんかかけらも出てこないし。
似たテーマの映画といえば、「モンタナの風に抱かれて」もそうだし(これはテーマが馬だったから、やっぱり間口が狭い)、「バードマン」もそうですね。「バードマン」も演劇がプロットだったし。どれも傑作と思ってますけど、「時間」がテーマの作品て日本では少ないと思うので、大事に考えたいなと。
あとねえ、以前から、男の人ってのはどうしてこう、自分の抱えてる問題からつるりぬるりと逃げるんかね?と不思議だったんだけど、あーこういう事か、と若干理解できたような。となると、この映画、男ウケは悪いでしょうなあ。
公式サイトP.S「ゴドーを待ちながら」は、かつて緒形拳さんが日本中で上演してたことがありました。難しい作品なんだけど、揺さぶられる人が多いらしくて不思議なことだ、とおっしゃっていたのを覚えています。